朝日新聞社と朝日放送(ABC)テレビの高校野球総合情報サイト「バーチャル高校野球」は、第106回全国高校野球選手権大会の地方大会全試合を無料でライブ配信する。昨年に続き、この夏もすべての熱戦をスポーツナビとスポーツブルで楽しめる。 バー…

 朝日新聞社と朝日放送(ABC)テレビの高校野球総合情報サイト「バーチャル高校野球」は、第106回全国高校野球選手権大会の地方大会全試合を無料でライブ配信する。昨年に続き、この夏もすべての熱戦をスポーツナビとスポーツブルで楽しめる。

バーチャル高校野球は大会のライブ配信だけではなく、様々な企画を通じて高校野球の魅力を発信してきた。斎藤佑樹「未来へのメッセージ」もその一つ。フィールドディレクターとして各地の学校を取材してきた斎藤佑樹さん(36)は高校野球の未来を考え、海の向こう側にも足を運んでいる。

■日本の魅力を再発見

 3月、大リーグ・ドジャースの開幕戦を翌日に控えた韓国。この日、僕はソウル郊外の京畿(キョンギ)商業高校のグラウンドにいました。

 僕自身、2006年夏の甲子園で優勝できたからこそ、野球人生が大きく変わりました。自分を育ててくれたのは日本の高校野球です。その未来を考えたとき、心配に思うことがあります。全国3800校以上の学校で球児が奮闘していますが、部員数の減少が目立っています。この潮流は日本だけなのか。そんな疑問から、海外の高校野球の実情を知りたくなったのです。

 世界の舞台で日本のライバルと称されてきた韓国。部活動として野球に取り組む高校は約100校で、競技人口は約3800人。約13万人が励む日本の高校野球と比べ、圧倒的に少ないことに驚きました。

 高校でも野球を続ける生徒は“エリート”で、部活動の後に「野球塾」に通う球児もいます。約9割がプロ野球選手を本気で目指しているそうです。「韓国では高卒ですぐにプロに行きたいと考える選手がほとんど。大学で4年、兵役で約2年。6年間は長い」。プロ注目の一人、京畿商の韓支允(ハンジユン)捕手から「兵役」という言葉を聞き、日本の球児とは異なる必死さを感じました。

 2月には、オーストラリアのゴールドコーストにあるロビーナ高校を訪問しました。同国内でも珍しい「野球コース」があり、全校生徒約1500人のうち約60人が「野球の授業」に向き合っていました。実技だけでなく、栄養学や心理学なども学びます。オーストラリアの多くの球児は学外のクラブチームに所属しており、大人と一緒にプレーする機会も珍しくありません。日本人留学生の林幸星選手は「相手の年代も性別も関係なく、コミュニケーションができる」と、魅力を教えてくれました。

 海外の高校野球を知ることで、日本の高校野球の魅力にも改めて気づかされました。韓国では野球キャリアのステップの一つという位置付けですが、「教育の一環」という考え方が根付いた日本では競技力向上だけでなく、人間形成の舞台としても評価されてきました。オーストラリアでは「野球部」という枠組みにとらわれない自由がある一方で、「甲子園」といった共通の目標を掲げて仲間と挑戦するのは難しいのだと感じました。

 2年間続けてきた国内各地の学校訪問でも毎回、発見があります。不祥事を契機に組織マネジメント改革を進める金足農(秋田)や、メタバースという最新技術を使って魅力発信に取り組む札幌南(北海道)。日本にもまだ知られていない素晴らしい取り組みがたくさんあります。

 高校野球の魅力を発信する次なる一手を担う一員として、国内の学校だけでなく、世界の高校野球にも目を向け、普及のヒントを探っていきたいと考えています。

 さいとう・ゆうき 1988年、群馬県生まれ。早稲田実(西東京)のエースとして第88回大会(2006年)に出場し、決勝再試合の末、優勝。早稲田大学からプロ野球の北海道日本ハムファイターズに入団し、21年に現役引退。22年からバーチャル高校野球のフィールドディレクターを務める。