「バレーボール女子ネーションズリーグ2024」予選ラウンド福岡大会。「パリ五輪出場権を懸けて」がお題目となった大会で、小倉の町は静かに燃えていた。その数日間を追った――。ネーションズリーグ女子ファイナルラウンド準々決勝で中国と対戦する古賀紗…

「バレーボール女子ネーションズリーグ2024」予選ラウンド福岡大会。「パリ五輪出場権を懸けて」がお題目となった大会で、小倉の町は静かに燃えていた。その数日間を追った――。



ネーションズリーグ女子ファイナルラウンド準々決勝で中国と対戦する古賀紗理那ら日本の選手たちphoto by MATSUO.K/AFLO SPORT

 6月14日、北九州。ネーションズリーグ福岡大会は佳境に入っていた。

「勝てば、パリ五輪出場へ」

 日本は前日、アジアのライバルである韓国をストレートで撃破していた。その結果、この日のカナダ戦は「王手」だった。追い込まれていたわけではなかったが、あと一歩、という重圧もある。

 会場に大音量で曲が流れるなか、カナダ代表の選手たちは、先発メンバー紹介で整列しながら、軽快に体を揺らしていた。赤と青を基調にした暗めの照明で、深夜のクラブにでもいるかのように、リラックスしているように映った。その空間を楽しんでいた。それは国民性か。あるいは、パリ五輪に向けては「勝つしかない」と開き直っていたのか。

 結果的に、日本はカナダの余力に苦しむ。2セットを連取したが、徐々に消耗。ブリーキングの巧みなセットアップから、キアラ・バンライク、アレクサ・グレイというふたりの大砲を浴びる。2-0のリードから2-3と逆転負けを喫した。

「カナダ戦は厳しい展開になると予想していました。ただ、3番(バンライク)、9番(グレイ)は本当にすばらしく(両者とも大会トップ5に入るスコアラー)、日本のブロックでは、なかなか止められない」

 眞鍋政義監督は白旗を上げるように総括した。

 日本の戦いは、好むと好まざるにかかわらず、「五輪」に左右される。取材エリアに出てきた選手たちも、正念場の一戦に敗れたことで悲壮感を漂わせていた。彼女たちが、日本女子バレーの未来を担う――。その光と影は物語を紡ぎ出すが、残酷でもあった。

 6月15日。カナダ戦後にFIVB(国際バレーボール連盟)がポイントを計算した結果、日本バレーボール協会は「日本のパリ五輪出場が確定」という通知を受けた。前夜の風景があっただけに、やや拍子抜けしたところはあった。複雑すぎるポイント計算が必要で(勝ち負けで点数が変わるだけでなく、対戦相手の順位やセット数などが加味される)、関係者すら把握するのが難しそうだった。

【印象的だった岩崎こよみの姿】

 ともあれ、それは朗報だった。

 日本は昨年9月のパリ五輪予選でフルセットの末にブラジルに敗れて出場権を逃した後、乾坤一擲で挑んだネーションズリーグを通じ、着実にポイントを稼いできた。昨年のワールドカップで優勝したトルコや、アジアでランキング1位の中国からも勝ち星を挙げている。その戦いが正当に評価された形だろう。6大会連続五輪出場は立派なものだ。

 この日、日本の試合はなかった。近隣の商業デパートの入り口には、古賀紗理那や宮部藍梨など人気選手の等身大パネルが飾られ、そこにファンが集まって笑顔で記念撮影をしていた。彼女たちは、密かに五輪出場決定を祝っているようだった。
 
 6月16日、日本は強豪セルビアをストレートで下している。相手は数人の主力を欠いていたが、快勝はカナダ戦でのモヤモヤを払しょくした。

 ミドルブロッカーの荒木彩花が、ブロック一枚でシャットアウト。石川真佑がストレート、クロスを打ち分け、得意のブロックアウトを誘う。山田二千華がブロードを決め、フェイントも成功。終盤は古賀がサーブでリベロを崩し、レフトから強烈なスパイクを打ち込んでいる。

<サーブでできるだけ崩し、ブロック、レシーブを有利に>

 それは、日本が世界の強豪を打倒するベースになるだろう。選手たちは、それぞれの持ち味を出しながら戦っていた。

「誰ひとり欠けても、この切符をつかめなかった」

 選手たちは皆、同じ意味のことを口にした。ひとつひとつの個性の集まりなのだろう。

「子育てのことを考えないといけないところもあるので、バレーに100%をかけているみんなと比べて、自分がやっていいのか、という葛藤はありました。でも、自分にしかわからない、みんなに伝えられることもあるかなって。今はオリンピック出場が決まって、本当によかったです。自分はアタッカーを信じて、最後に打ちやすいボールを託すだけですが、出た課題に取り組めるように......」

 取材エリアで、セッターの岩崎こよみは最後まで取材対応をしていた。

 35歳で育児をしながらのプレーで、日本スポーツ特有の報道形式からは「ママ」という属性で語られる。それは彼女のアイデンティティのひとつだろう。だが、2009年に代表に初めて選ばれ、アキレス腱断裂から復活し、イタリアで武者修行し、Vリーグを代表する選手のひとりとなり、長くセッターとして生きてきた。若い選手たちを鼓舞する姿は、誰よりも「プレーヤー」の属性と言えるだろう。

 6月17日、日本は東京五輪で金メダルに輝いたアメリカに挑んでいる。

「5位浮上の可能性があり、パリ五輪の組み合わせで第2ポッドに入れるだけに、勝利を目指す」

 チームは明確な目標を掲げてこの試合に挑んでいた。五輪出場は確定。次は五輪をどう戦うか、に切り替わっていたわけだ。だが......。結果から言えば、ストレート負けで力の差を見せつけられている。

 サーブで崩したかったが、むしろ相手のパワフルなサーブに綻びが出た。ブロッカーとリベロが連係した守りに阻まれ、スパイクも決まらなかった。そして、じりじりと突き放された。

「今日はずっとチグハグでした」

 キャプテンである古賀は、そうはっきりとメッセージを出すことで、チームメイトたちを啓発するようでもあった。勝つために妥協はしない。その姿勢が、エースの存在理由だろう。1セット目、古賀は精度の高いサーブで相手を崩し、立て続けにブレイク。一時は逆転に成功した戦いはひと筋の光明だった。彼女のような人材がいることが、日本の生命線だ。

「選手たちが、昨年五輪予選でトルコ、ブラジルに敗れた悔しさを半年間、継続してくれました」

 眞鍋監督は会見で言った。やはり、このチームは否応なく五輪を分岐点にして存在している。その重力とどう向き合い、味方にできるか。

 6月20日、日本はネーションズリーグ、ファイナルラウンドの準々決勝で中国と戦う。これも7月のパリ五輪への試金石になるはずだ。