高校野球の発展と選手育成に尽力した指導者に日本高校野球連盟と朝日新聞社が贈る「育成功労賞」に、富山高専の監督や責任教師を務めた井上誠さん(60)が選ばれた。28年間の指導の功績が評価された。 井上さんは同校の卒業生。野球部に入って選手やマ…

 高校野球の発展と選手育成に尽力した指導者に日本高校野球連盟と朝日新聞社が贈る「育成功労賞」に、富山高専の監督や責任教師を務めた井上誠さん(60)が選ばれた。28年間の指導の功績が評価された。

 井上さんは同校の卒業生。野球部に入って選手やマネジャーをやったが、2年生で退部した。しかし、根っからの野球好き。卒業後に編入した新潟県の大学では準硬式野球でプレーした。

 大手製鉄会社への就職の報告で母校を訪れた際、「教員にならないか」と誘われた。学校で研究を続けたいという気持ちもあり、1年で会社をやめ、機械の先生として地元に帰った。

 高専に戻って1年後の1992年春、監督を任された。29歳のときだ。「やまびこ打線」の愛称で知られ、全国制覇した池田(徳島)に憧れて視察に行くなど理想のチームを模索した。ただ、「現実はなかなか勝てませんでした」。それでも、かつて開かれていた富山地区大会で4強に入ったり、富山市長杯で強豪私学を破ったりしたのが「いい思い出です」と話した。

 2023年3月まで監督や責任教師として野球部に関わり、たくさんのことを学んだ。「その通り」と思うのは、明徳義塾(高知)の馬淵史郎監督の「棚からぼた餅論」だという。偶然、棚から餅が落ちてきても、近くにいないとつかめない。棚から遠くにいたらチャンスをのがす。「いつでも対応できるように、そばにいて準備を怠らない」という心構えを説く内容だ。

 最近気になるのは、声を出さない選手が目立つこと。次に想定されるプレーについて互いに声をかけて確認すれば、ミスも減らせると思う。

 いま、機械システム工学科の教授として教壇に立つ。「準備とコミュニケーションが大切」。野球だけでなく、社会に出てからも同じだ。球児には、それを高校野球で身につけてほしいと願っている。(前多健吾)