学生陸上界、トラックシーズンのピークとなる関東インカレが終わった。秋の駅伝シーズン、とりわけ箱根駅伝に向けて、各大学の主力選手がどの程度の仕上がりなのか、チームの現状を知るうえで重要な大会になる。関東インカレ2部10000mで日本人トップ…

 学生陸上界、トラックシーズンのピークとなる関東インカレが終わった。秋の駅伝シーズン、とりわけ箱根駅伝に向けて、各大学の主力選手がどの程度の仕上がりなのか、チームの現状を知るうえで重要な大会になる。


関東インカレ2部10000mで日本人トップを飾った青学大の黒田朝日

 Photo by Itaru Chiba/AFLO

 圧倒的な安定感と強さを見せたのが、青学大だ。
 
 2部10000mでは黒田朝日(3年)が日本人トップの27分52秒02の自己新で3位、白石光星も自己新で11位、1500mでは宇田川瞬矢(3年)が2位、2部ハーフマラソンでは太田蒼生(4年)が2位、塩出翔太(3年)が6位、2部5000mでは鶴川正也(4年)がラストで留学生をちぎって優勝。タイム的な速さよりもむしろ圧倒的な強さを感じさせるレースばかりだった。一部の大学からエース級の選手が出場していないこともあるが、それでも留学生にも負けない、勝ち切ることへの意欲が飛び抜けていた。
 
 選手層を見ても前回の箱根優勝メンバーが7名残っており、スーパールーキーの折田壮太(1年)を始め、5000m13分台の選手8名が入部し、チームにいい風を吹かせている。黒田朝日は、「自分も1年生に負けないようにというか、いいところを見せたいいという思いがあるので、そういう面ではすごく刺激になっています」と語る。やや存在感が薄い2年生が調子を上げてくれば、隙間なく各学年が充実する。選手層は大学随一となり、他大学の動向を気にすることなく、重厚なオーダー編成が可能になる。今季の駅伝の最初のレースである出雲駅伝を獲れば2016年以来の大学駅伝3冠が見えてくるはずだ。

 青学大同様、右肩上がりの成長曲線を描いているのが國學院大だ。
 
 2部10000mで青木瑠郁(3年)8位、上原琉翔が28分16秒76の自己新で9位、野中恒亨(2年)が28分17秒98の自己新で10位となり、3名が28分20分を切る結果を出した。2部ハーフマラソンでも高山豪起(3年)が3位、辻原輝(2年)が7位、田中愛睦(2年)が16位に入り、2部3000mSCは桶田一翔(1年)が自己ベストで8位入賞を果たした。2部5000mは、山本歩夢(4年)が9位、後村光星(2年)が11位、原秀寿(4年)が13位に終わり、入賞者は出なかったが、3人が10位前後でまとめた走りは、今後につながるだろう。

 國學院大は平林清澄(4年)が大阪マラソンで2時間6分18秒の日本歴代7位、初マラソン日本最高、学生新の記録を出し、上海マラソンでは61分23秒の自己新を出すなど学生トップランナーに成長。また、3月の学生ハーフでは青木が優勝している。エースが強さを見せ、主力の3、4年生が安定した力をつけており、今年の國學院大は過去最強とも言えるチーム編成を実現しつつある。
 
 高山は、「平林さんというエースの存在があって、その下をしっかりと固めていくのが自分たちの世代なので、チームとして総合力で駅伝は勝負していきたいと思います」と語る。箱根駅伝の初優勝は、エースを支える青木、高山ら3年生のパフォーマンスによるところが大きくなるが、チームの幹は相当に野太くなった。「平林が4年になった時、優勝を狙えるチームが完成する」と前田康弘監督は語っていたが、まさにそのとおりの展開になりつつある。

 創価大は、主力選手が確実に結果を残した。2部10000mでは、スティーブン ムチーニ(2年)が27分41秒52で2位、吉田響(4年)は28分12秒01で8位入賞し、ともに自己ベストを更新。2部ハーフマラソンでは、吉田凌(4年)が9位、山口翔輝(1年)は15位と健闘、2部5000mでは、小池莉希(2年)が7位入賞した。織橋巧(2年)が16位、石丸惇那(3年)が19位ともうひとつだったが、彼らの状態が上がり、秋までに山口らルーキーが台頭してくれば、山に強い吉田響がいるだけに往路ではある程度の優位性を持って戦えるのは間違いない。

 中央大は、選手によって明暗がはっきり分かれ、走って欲しいと期待されて出場した選手の結果がもうひとつだった。
 
 1部10000mでは溜池一太(3年)が28分07秒82の自己新で4位に入賞し、吉居駿恭(2年)とともに次代のエースとしての存在感を見せた。1部ハーフマラソンでは白川陽大(3年)が3位、1部5000mでは岡田開成(1年)が6位入賞を果たし、ルーキーながら力強い走りを見せた。だが、10000mで山平怜生(4年)は15位、ハーフで佐野拓実(4年)が21位、本間楓(2年)が39位に終わり、藤原正和監督もちょっと想定外だっただろう。

 中央大は、毎年、中間層の成長が課題になるが、今年もその層がどこまで戦力になっていけるか。その課題が解消されたとは言い難い。箱根駅伝は予選会を経て、本大会での優勝争いを考えるならば、戦える中間層のボリュームを上げていくことが必要になるだろう。

 順天堂大は、一昨年、強い4年生が卒業。さらに、今年の3月にはエースの三浦龍司も卒業し、新しいチームを構築し始めたばかりだ。今年は力のある1年生が入学したが、関東インカレではそのルーキーたちが出走した。
 
 1部1000mでは玉目陸が28分13秒67の自己ベストで8位入賞したが、海老澤憲伸(4年)は21位、吉岡大翔(2年)は25位と低空飛行。1部5000mでは、13分43秒03のタイムを持つ永原颯磨、さらに川原琉人(13分52秒29)、池間凛斗(13分58秒96)のルーキーが出場したが、永原が25位、川原が29位、池間が16位とふるわず、少し物足りない結果になった。
 
 吉岡が昨年から悪い流れを引きずったまま、伸び悩んでいるのが気になるが、ここから彼を含めた2、3年生がどこまで上げていけるか。箱根予選会の突破と、その先の本戦を見据えてのチームビルディングになるが、玉目は、「順大にスーパールーキーと言われる1年生がたくさんいるので、学内で切磋琢磨して他大学に負けないようなチーム、学年になっていきたいと思います」と冷静に語る。順大は1年生が順調に伸びて上級生になった時に上位を狙えるチームとなる強化を進めながら目の前の試合を戦っていくシーズンになりそうだ。

 ちょっと心配なのが駒澤大だ。
 
 昨シーズン、2年連続3冠に挑戦し、箱根駅伝で青学大に破れ、鈴木芽吹主将を始め、史上最強とも言われる4年生がこの春にごっそりと抜けた。今回の関東インカレは、箱根奪還に向けて、チームの戦力と選手の現状を知るうえで重要なポイントになった。
 
 だが、結果は厳しいものに。2部10000mでは伊藤蒼唯(3年)が29位、安原海晴(2年)はDNF(途中棄権)に終わった。2部ハーフマラソンでは、山川拓馬(3年)が出走を回避し、吉本真啓(4年)が22位、庭瀬俊輝(4年)は31位と精彩を欠いた。2部5000mではルーキーの桑田駿介が13分49秒69の自己新で5位に入り、駒大の面目を保ったが、金谷紘大(4年)は15位に終わった。エースの篠原倖太朗(4年)と佐藤圭汰(3年)を抜きにしても1年生以外、上位で戦えていない結果を考えれば、駒澤大らしい強さが見えず、先行きに不安が残る。

 伊藤は、「自分は体がキツいし、スピードが上がらず、今までにないぐらいうまくいっていない。何が原因なのか、わからない。チームも全体的にうまくいっていないですね。戦力がだいぶ落ちているなか、中間層が上がっていない。昨年と天と地ほどの差があり、今年の駅伝はかなり苦戦しそうです」と、厳しい表情を見せた。
 
 金谷は、「今回は練習がぜんぜんできていなかったということではないんですけど、情けない結果になってしまって。全体的に結果が出ていないですし、今回は他大学がかなり走っているので、危機感があります」と、思いつめた表情で語り、吉本も「4年生としてこのままじゃいけない。危機感しかないです」と表情を曇らせた。

 青学大や國學院大の充実ぶりを見れば、金谷や吉本が危機感を抱くのも当然だ。
 
 篠原と佐藤に頼り切りでは、駅伝で勝利するのは難しくなる。エースや4年生に頼り切っていた昨年と同じ轍を踏まないように、4年生たちがどうチームをまとめ、巻き返していくか。さらに、1、2年生の中間層の底上げが実現しないと、箱根王座を取り返すどころか、惨敗してしまう可能性すらある。駒澤大は、それら多くの課題に向き合い、答えを出していくことが求められるが、果たして、どうなるのか。

 今後の駒澤大に注目したい。