サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、日本と同じ島=アイランドに住む人だけが参加できる(?)、あまり知られていない国際スポーツ大会の話…

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、日本と同じ島=アイランドに住む人だけが参加できる(?)、あまり知られていない国際スポーツ大会の話。

■最終戦「男子決勝」に登場した乳牛の原産地

 サッカー女子は10チーム出場。決勝に進出したのは、スコットランドの北西沖に位置する「アウター・ヘブリディーズ」と、カリブ海の英国領「バミューダ」。バミューダは北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)と国際サッカー連盟(FIFA)に加盟する独立のサッカー協会の代表チームで、この当時のFIFA女子ランキングは147位。決勝戦も4-0で快勝した。大会を通じて5試合を全勝、総得点15、失点なしで2回目の優勝を飾り、「貫禄」を示した。

 男女合わせて54試合のサッカーの最終戦、7月14日午後3時半キックオフの男子決勝に登場したのは、北ウェールズからまるで川のような狭い海峡で隔てられた「アングルシー」と、「ホスト」のガーンジー島と同じチャンネル諸島にあり、同じように英国王室領である「ジャージー」。乳牛として世界に広まっている「ジャージー種」の原産地である。

 会場はセイントピーターポートの港から西へ約3キロ、町のはずれにある「フッツレイン・スタジアム」。5000人収容の陸上競技場で、2023年アイランドゲームズでは陸上競技の会場にもなったメイン・スタジアムだった。この島らしい風の強い午後。7月なかばとは思えない肌寒い日だった。

■エース欠場、「強風のイタズラ」を跳ね返して

 イングランドで「9部」にあたる「コンバインド・カントリー・リーグ」に所属する「ジャージー・ブルズ」を中心としたジャージー(17人の「代表選手」中15人がこのクラブの選手だった)は、試合前からピンチに立っていた。エースのFWソル・ソロモン(「ブルズ」ではなく、リバプールの「マリーン」というクラブ=イングランド7部=所属)が、ウォーミングアップ中に負傷し、欠場を余儀なくされたのだ。

 そしてキックオフからわずか80秒、思いがけない失点を喫する。開始早々の相手左CK。これはDFがかろうじて頭で触れてゴールライン外にクリア。ボールを拾ったのは、ゴール裏にただひとり立って撮影していたカメラマン。ぎこちない右足キックでアングルシーのCKキッカーであるFWサム・ジョーンズに渡す。

 ちなみに、このカメラマンは、BBC放送のブレント・ピルニック記者であった。BBCでイングランド南西部のニュース取材を担当する彼は、ジャージー生まれであり、志願してこの決勝戦の取材に来たのである。そして2本目のCKがジャージーのゴール前に高く上がる。

 勇敢にゴールを出てパンチでクリアしようとするジャージーGKユアン・バンデルブリート。しかしジャージーゴールに向かって吹く強い風でボールが流れ、彼の右こぶしに当たったボールは前には飛ばず、高く上がり、そのままジャージーのゴールに吸い込まれてしまったのだ。オウンゴールである。

 しかし、濃厚で良質なミルクで育った(に違いない)ジャージーの選手たちの闘志はくじけなかった。4分後にはアダム・トロッターが左サイドを破って同点ゴールを決める。前半16分にアングルシーが再びリードを奪うが、ジャージーは35分、44分と連続得点、3-2と逆転して前半を終えた。

 5日間で4試合目。さすがに疲れが目立った両チーム。後半は横なぐりの雨が降る悪天候となり、風上に立ったジャージーは後半5分に相手のバックパスミスを拾って4点目を決めると、後半12分にアングルシーの攻撃の中心であるFWサム・ジョーンズが相手の足を踏んで退場となり、意気阻喪した相手の守備を破って、ルーク・ワトソンが5点目。最多記録を更新し、見事4回目の優勝を飾ったのである。まさに「島々の王」である。

いま一番読まれている記事を読む