【合田直弘(海外競馬評論家)=コラム『世界の競馬』】 ◆米国の有力馬主が今後日本に参戦か  フランスを代表する2歳市場である「アルカナ5月ブリーズアップセール」が、5月11日にフランスのドーヴィルで行われ、上場番号110番として登場した父…

【合田直弘(海外競馬評論家)=コラム『世界の競馬』】

◆米国の有力馬主が今後日本に参戦か

 フランスを代表する2歳市場である「アルカナ5月ブリーズアップセール」が、5月11日にフランスのドーヴィルで行われ、上場番号110番として登場した父ジャスティファイの牡馬が、このセールとしては歴代最高価格となる230万ユーロ(約3億8946万円)で購買された。

 現役時代は米国で走り、G3ミントジュレップH(芝8.5F)3着、G3ビウィッチS(芝12F)4着などの成績を残したインチャージオブミーの3番仔となる同馬。おじにG1レーシングポストトロフィー(芝8F)2着馬ヨハンシュトラウス、同じくおじにG1クリテリウムドサンクルー(芝2000m)3着馬ミシカル、従兄弟にG1BCジュベナイルターフ(芝8F)3着馬ナギロックと、近親には2歳戦の活躍馬が並んでいる。

 9日にドーヴィル競馬場で行われた公開調教でも、跳びの大きなフットワークで抜群の動きを披露(欧州の2歳市場は追い切り時計の公表がなく、走破時計は不明)。セール開始前から、最高価格はこの馬との評判が立っていた。

 激しいビッドの応酬の末、終盤はトップマーケットではお馴染みの、クールモアVSゴドルフィンの一騎打ちとなった。M.V.マグナー、P.シャナハン、N.ド.ワトリガンの3氏が会場左手最上階デッキに立つクールモアと、その真下に位置する地上階奥の出口への通路にA.ストロウド、C.アップルビー、D.ローダーの3氏が立つゴドルフィンによる息詰まる攻防は、最終的にはゴドルフィンが勝って購買に成功した。

 同馬を上場したのはオークツリーファームのノーマン・ウィリアムソン氏で、彼は米国産の同馬を昨年秋のキーンランド9月1歳市場にて15万ドル(当時のレートで約2216万円)で仕入れていた。同馬の価値は8カ月ほどの間に17倍以上に膨れ上がったわけで、ピンフックの大ホームランとなった。

 実はゴドルフィンは、21年にG1デューハーストS(芝7F)、G1ヴィンセントオブライエンナショナルS(芝7F)を制し欧州2歳牡馬チャンピオンとなったネイティヴトレイルを、21年春のタタソールズ・クレイヴン2歳セールで購買しているのだが、ネイティヴトレイルのコンサイナーもオークツリーファームのノーマン・ウィリアムソン氏だった。購買後にストロウド氏は「相性の良いコンサイナーからの上場馬であったことも、購買に執着した要因の1つである」と語っている。最高価格馬の父ジャスティファイは、現在3歳となった2世代目の産駒から、シティーオブトロイ、オペラシンガーという、牡馬・牝馬両方のヨーロッパ2歳チャンピオンが誕生。マーケットでも大人気で、最高価格馬のみならず、セッション2番目の高値となる100万ユーロで購買されたのも、父ジャスティファイの牡馬だった。トップエンドの価格帯で展開された華々しい空中戦を目の当たりにすると、さぞや好調なマーケットだったのかと思いきや、市況を分析すると実はそうでもなかったことがわかる。

 総売り上げは前年比3.6%アップの2183万6500ユーロ、平均価格は前年比9.1%アップの16万5528ユーロで、いずれも前年に作った記録を破るこのセールとしての歴代最高をマークと、ここまでは誠に芳しい指標である。ところが、中間価格は前年比で9.1%ダウンの10万ユーロ。バイバックレートは、昨年の16.8%から、今年は24.1%に上昇してしまった。すなわち、中間より下の価格帯では需要が薄く、販売側にとっては厳しいマーケットだったのである。コンサイナーからは、「購買者のお眼鏡にピタリとかなう馬でなかれば、売るのは難しい」との声が聞かれた。

 さて、2歳セールと言えば、10日に船橋競馬場で行われた「千葉サラブレッドセール」が、なかなかの好況に終わった中、大きな話題となったのが、米国の有力馬主マイク・リポール氏が、父オルフェーヴル・母アンリミテッドバジェットの牝馬を3000万円(税抜き)で購買したことだった。

 そのリポール氏、アルカナ5月2歳市場でも、父トゥーダーンホット・母トゥルーヴァーディクトの牡馬を25万ユーロで 父シユーニ・母オーヴァーリアクテッドの牡馬を36万ユーロで購買している。

 米国以外で生まれた若駒の購買に積極的な姿勢を見せているリポール氏は、千葉セールでの購買後、ブラッドホース誌のインタビューに応えて、「さらに日本の馬を購買したいと思っている」とコメントしている。7月のセレクトセールをはじめとした、今後の日本の市場に参戦する可能性がありそうだ。

(文=合田直弘)