早大は27日、東京六大学野球春季リーグの明大1回戦に5-4で先勝。タフなシーソーゲームの中で、かつてプロの投手としてNPB通算117勝を挙げた小宮山悟監督の代打策、継投策がことごとく的中した。 「早稲田さんの執念を試合前から感じていて、…

 早大は27日、東京六大学野球春季リーグの明大1回戦に5-4で先勝。タフなシーソーゲームの中で、かつてプロの投手としてNPB通算117勝を挙げた小宮山悟監督の代打策、継投策がことごとく的中した。

「早稲田さんの執念を試合前から感じていて、最後はそれに押し切られた感じです」。“敵将”の明大・田中武宏監督は試合後の会見で、そう振り返った。「(早大の執念は)小宮山さんのコメントを見ていれば伝わってきます。(早大にしてみれば)丸2年間勝ち点を取れていないのですから、逆の立場だったら、当たり前だと思います」とうなずいた。

 3-4とリードされた早大の8回の攻撃。1死満塁の絶好機をつかんだ。明大のマウンド上にいたのは左腕の千葉汐凱投手(4年)だったが、小宮山監督はあえて、右打者の8番・寺尾拳聖外野手(2年)の代打として、左打者の梅村大和内野手(4年)を起用した。その梅村が右前へ同点適時打。さらに続く伊藤樹投手(3年)にも、左の代打・石郷岡(いしごうおか)大成外野手(3年)を送って攻め立てた(結果は遊ゴロ)。

代打起用に見事に応えた早大・梅村【写真:加治屋友輝】

 指揮官は「左(投手)に対して左(打者)ですから、奇策に映ったと思います。しかし、梅村にしても石郷岡にしても、この1週間の打撃練習を見ていて、左投手に対しても行けるだろうと判断していました。さらに言うと、相手の千葉くんは、左打者に打たれてはいけないというプレッシャーが尋常でなかったと思います。その辺を計算しながらの起用でした」と説明。一方で「成功すれば何とでも言えますが、失敗していたら迷采配と言われる起用です。ホッとしています」と本音を吐露した。

 同点のまま迎えた9回の攻撃で、試合を決めたのも代打策だった。1死一、三塁のチャンスで松江一輝外野手(3年)を指名。今季開幕前の時点では、リーグ戦通算5打数1安打。今季は15日の立大3回戦に代走で出ただけで、打席には1度も立っていなかった。「松江、行くぞ!」と声をかけられると、一瞬きょとんとした表情を浮かべ、慌ててベンチ裏へバットを取りに走ったほどだ。

最終回に勝ち越し打を放った早大・松江【写真:加治屋友輝】

 それでも松江は、外角低めのチェンジアップを必死に拾い、バットを折りながら、前進守備の二塁手の頭を際どく越える勝ち越し打を放った。小宮山監督は代打の人選の基準を、「練習中の“様(さま)”を見て判断しています。松江も練習の様子から、十分準備をしていると感じました」と説明した。

 1点リードで迎えた9回の守備でも、絶体絶命のピンチがあった。2番手の香西一希投手(2年)が1死満塁とされると、1年生の安田虎汰郎投手にスイッチ。日大三高時代に甲子園を沸かせた逸材とはいえ、入部間もない1年生に一打逆転サヨナラ負けの場面は過酷に見えた。

 安田自身「生きた心地がしなかった」と明かすが、得意のチェンジアップで相手の4番・横山陽樹外野手(4年)を浅い左飛、続く5番・加藤巧也内野手(4年)も中飛に仕留め、勝利をもぎ取ったのだった。

ピンチでの登板で見事ゼロに抑えた早大・安田選手

 安田は試合後の会見中、「ボリショイサーカス」のロゴと熊のイラストが描かれたタオルを傍らに置いていた。「実はこれ、小学校低学年の頃に友だちからもらったもので、試合の日には必ず使っています。甲子園にも持っていきました」と打ち明けた。スヌーピーの友人ライナスにとっての毛布のような、1年生右腕の心の支えなのかもしれない。

 早大は2022年の春以降、4季連続で明大に勝ち点を落としている。22年の秋と23年の春は0勝2敗で一蹴され、昨季(23年の秋)は1回戦に5-3で競り勝ちながら、2、3回戦に連敗を喫した。「今回は同じ失敗を繰り返さないように、引き締めて戦います」。小宮山監督は3年越しの勝ち点奪取へ向け、もう1度ボルテージを上げた。

(Full-Count 宮脇広久)