今年より大阪商業大でプレーする真鍋慧 photo by Kikuchi Takahiro【ボンズから真鍋に変わった】 南港中央野球場の左打席に入った真鍋慧(けいた)を見て、違和感を覚えた。 構え方が明らかに違う。グリップの位置が低くなり、バ…


今年より大阪商業大でプレーする真鍋慧

 photo by Kikuchi Takahiro

【ボンズから真鍋に変わった】

 南港中央野球場の左打席に入った真鍋慧(けいた)を見て、違和感を覚えた。

 構え方が明らかに違う。グリップの位置が低くなり、バットヘッドを三塁側ベンチ方面に向けて投手と相対する。王道のスラッガー然としていた高校時代よりも、やや変則的な構えである。

 試合後に大阪商業大の富山陽一監督に真鍋のフォーム変更について聞いてみると、こんな反応が返ってきた。

「ボンズから真鍋に変わった、いうことちゃいますか」

 高校時代の真鍋は「広陵のボンズ」の異名があった。そのスケールの大きさから広陵高の中井哲之監督がバリー・ボンズ(元ジャイアンツほか)になぞらえて「ボンズ」と呼び始め、チーム内に浸透。練習用ユニホームのズボンの腰部分には、カタカナで「ボンズ」と書かれていた。

 高校通算64本塁打の実績を残してプロ志望届を提出したが、昨秋のドラフト会議では指名漏れに終わった。「3位以内の指名がなければ大学進学」という条件にマッチする球団がなかったためだ。大学は中井監督の母校であり、多くの広陵OBが進学する大阪商業大に進んだ。

 4月6日、デビュー戦となる大阪学院大戦に2番・DHで先発起用された真鍋は、前述のとおり別人と思うほど変貌した打撃フォームで登場した。

 過去との決別。そんな意味合いもあるのだろうか。真鍋に聞くと、「とくにそういう思いはありません」と答えが返ってきた。

「足も上げるようにしましたけど、どうやって(大学で)通用する打ち方にできるかを考えて変えていきました」

 高校時代は構えが硬く、スイング時に力んでしまう原因になっていると感じたという。高校3年夏の大会を終えたあと、力みをなくす目的で行きついたのが現在の打撃フォームだった。

 デビュー戦での真鍋は2打席目にセンターオーバーの先制タイムリー二塁打を放った。木製バットでも打球はぐんぐん伸び、中堅まで122メートルある南港中央野球場のバックスクリーン手前まで達した。3打席目にも2打席連続タイムリーとなるセンター前ヒットを記録。5打数2安打2打点と、上々の大学デビューを飾っている。

【一塁からセンターへコンバート】

 真鍋にとって大きな変化があったのは、打撃フォームだけではない。ポジションが高校までの一塁手から中堅手にコンバートされたのだ。

 試合前のシートノックではドラフト上位候補の渡部聖弥、主将の吉岡耶翔(やまと)と並んで中堅のポジションに入った。フライをポロリとこぼすシーンも見られ、ぎこちない動作も目についた。だが、富山監督は「センターのほうが合っている」と見ている。

「足が速いし、肩が強い。それに、外野はボールが長く見られて、真鍋に合っているように感じました。ファーストやサードでも見ましたが、センターがいいだろうなと」

 広陵の3学年先輩にあたる渡部の守備を見て、どんな感想を抱いたのか。そう聞いてみると、真鍋はこう答えた。

「聖弥さんはスローイングがすごいし、一歩目の速さが全然違うので見習っていきたいです」

 最後に、失礼を承知で聞きたいことがあった。

 大観衆で埋まった華々しい甲子園球場と、閑散としたスタンドの南港中央野球場。そのギャップを感じることはなかったのか、と。

 真鍋は決然とした口調で「それは全然関係ないです」と否定した。重ねて、こんな環境ということを覚悟していたのかと聞くと、真鍋はこれも否定した。

「(球場の雰囲気は)全然わかっていなかったし、試合を楽しみにしていました」

 その後、渡部に真鍋のコメントを伝えると、渡部は後輩に思いを馳せながらこんな感想を語った。

「高校時代とは背負っているものが違うので、それ以上にプレッシャーを感じていると思うんです。『4年間でプロに行かないと......』という思いがありますし、甲子園以上のプレッシャーがあるんじゃないですか」

 過去との決別、地方球場からの反撃......。そんなエモーショナルな心情を真鍋は持ち合わせていない。とはいえ、ドラフト指名漏れの悔しさが癒えることはないはずだ。

 稀代の大砲は前に進むため、変化を恐れずに挑戦している。