金丸夢斗(関西大)の名前が全国区になったのは、3月7日。侍ジャパントップチームに招集され、欧州代表との強化試合に先発登板した日だった。 パワフルな打者が並ぶ欧州代表打線が、身長177センチ、体重77キロと細身のサウスポーが投じるボールにま…

 金丸夢斗(関西大)の名前が全国区になったのは、3月7日。侍ジャパントップチームに招集され、欧州代表との強化試合に先発登板した日だった。

 パワフルな打者が並ぶ欧州代表打線が、身長177センチ、体重77キロと細身のサウスポーが投じるボールにまったく対応できない。とくに本人が「持ち味」と語るストレートは、捕手のミットに向かって迫りくる加速感が違う。この日に登板したプロの投手を含めても、金丸のストレートは異彩を放っていた。

 金丸は特殊な身体感覚を持った投手でもあるが、侍ジャパンという得がたい経験をして、その身体感覚はどのようにアップデートされたのか。存分に「金丸ワールド」を語ってもらった。


関西大のエース・金丸夢斗

 photo by Kikuchi Takahiro

【ほかの人に言っても理解されない】

── 金丸投手のキャッチボールを見るのが大好きで、今日も堪能させてもらいました。フォームは力感がないのに、ボールは重力に逆らうようにスーッと伸びてきて。

金丸 ありがとうございます(笑)。

── 今日はキャッチボールを始める際に、硬球とは別のボールを投げていましたよね?

金丸 はい。重くて大きいボールと、重くて硬球と同じ大きさのボールの2種類です。手のひらの中心でボールを投げるという意識をつけるために、キャッチボール前に必ずやっています。

── 手のひらでボールを投げる? 指先ではなく?

金丸 最後に指先だけで投げようとすると、シュートしたり、抜けたりする感覚があって。なので、自分は手のひらの真ん中から指先にグッと押さえてあげることを意識しています。これを意識し始めてからコントロールも安定しましたし、シュート回転やスライド回転することもなくなってきました。

── それは面白いですね。金丸投手の場合はリリースの瞬間まで脱力して、リリース時に「0から100」に持っていく話を聞いていました。てっきり指先だけで100に持っていくのかなと思っていました。

金丸 手のひらの中心から指先が始まっているイメージです。といっても、ほかの人に言っても「わからない」と言われるので、自分独自の感覚なのかもしれません。

── たしかに話としては理解できますが、実際にやってみたら理解できないかもしれません(笑)。指先だけだと、ボールに負けてしまうのでしょうか?

金丸 大学で出力が上がって150キロを超えてくると、指先だけの力だと高めに浮いてしまったり、押さえきれなくて。手のひらの中心から投げる意識にしてからは、低めもしっかり伸びのあるボールが投げられるようになりました。

── あの低めに決まるストレートは、見ていて一番爽快です。ちなみにキャッチボール前に使うのは、専用の練習ボールなのですか?

金丸 いえ、サイズはあまり気にしていません。手のひらの中心を意識できれば、どんなボールでもよかったので。

── 意識し始めたのは、いつ頃ですか?

金丸 昨年の春が終わって、秋のリーグ戦に入る前ですね。

【体の中心に重心があるかが大事】

── 金丸投手が無双した昨秋のリーグ戦(6勝0敗、防御率0.35)の背景には、こんな感覚があったのですね。以前に話を聞いた時には、「重心を定める作業」のことも語っていました。基本的な考え方を教えてもらえますか?

金丸 体の力を使うには、体の中心(腹部を指差して)に重心があるかが大事だと考えています。リリースの時も「重心がどっしりしているか」を意識します。

── 試合前にはブリッジや倒立をして、重心を定める作業をするとか?

金丸 ピッチャーはマウンドという傾斜のある不安定な場所で投げるので、そういうことを無意識にできるようにしておきたくて。ブリッジや倒立をしながら、腹圧を気にすることをやっています。

── 腹圧......。それはヘソのあたりを気にするということですか?

金丸 自分の場合はお腹の前だけではなく、横も後ろもお腹全体をふくらませるイメージです。

── ふくらませる?

金丸 ブリッジをただきれいにやるだけではなく、強さも必要だと考えています。お腹周りをふくらませることで安定感が出て、強く、柔らかくブリッジができるんです。

── 腹筋に力を入れる、ということではなく。

金丸 ぐぁ〜っとふくらませるイメージです。

── そういったことは誰かに教わるんですか?

金丸 教わったこともあるんですけど、自分に合うと思ったものを自分なりにアレンジしています。

── ストローをくわえてトレーニングしているという噂も聞きました。

金丸 ストローをくわえることで空気が体に入ってきにくくなるので、力んでしまいやすくなります。その環境でも力感なく動いて、呼吸することを意識しています。そうすることで、リリースにかけて0から100に持っていくフォームにつながっていくと考えています。

── これだけ身体感覚を大事にしているからこそ、大きくない体でもあのボールが投げられるのですね。ウエイトトレーニングはしますか?

金丸 あまり重視はしていませんが、シーズンオフは週に2〜3回やっています。シーズン中はそれより、野球選手としての基礎をしっかりやることを考えています。

【父はアマチュア野球の審判員】

── 昨年から「課題は変化球」と言っていましたが、変化球を練習しすぎると持ち味のストレートのキレが損なわれる危険性もありますよね?

金丸 はい。なので、あくまでメインはストレート。長所を伸ばしつつ、変化球も少しずつ練習していきました。

── 春のオープン戦での投球を見ていると、「ストレートを投げておけば抑えられる」という場面でも、あえて変化球を試しているように見えました。

金丸 ただ抑えにいくだけじゃ、自分の成長にはつながらないので。オープン戦では、いろいろと試すことをテーマにしていました。

── 昨秋はスプリットが決め球として使えるようになり、今はチェンジアップの精度が向上しているように感じます。ボールがうまく抜けるようになって、右打者から空振りを取れるようになっていますね?

金丸 それは侍ジャパンで隅田さん(知一郎/西武)にチェンジアップの抜き方を教えてもらって、いい感じに抜けるようになりました。

── 差し支えなければ、どんな感覚なのか教えてください。

金丸 リリースの時に左手を手前に引くイメージです。あくまでイメージであって、実際には腕を振る動作になるんですが。隅田さんのお話を聞いて、「なるほどな」と思って試してみたら、自分には合っていました。

── 隅田投手は右打者だけでなく左打者にもチェンジアップを使えて、すごいですよね。

金丸 いや、本当にそうです。すごいです。

── フォームに関してももう少しお聞きしたいのですが、試合中に金丸投手の写真を撮っていて、トップの瞬間を収めるのが難しいと気づきました。ずっと半身の状態が続いて、続いて、やっとトップが来たと思ってシャッターを切っても、間に合わない。打者からしても同じ感覚で、タイミングが取りにくいんじゃないかと思うんです。

金丸 あぁ〜、たしかに左腕を振り上げて投げるまでが速いですね。

── テイクバックで左腕を下げてから、振り上げ、振り下ろしの動作を一気に流れのなかでやっているイメージです。

金丸 というか、この動作のスピードが速くなってから、球が速くなりました。

── えっ、そうなんですか? それは高校時代の話ですか?

金丸 いえ、大学に入ってからです。自分の場合、この(左手を)上げてから投げるまでを速くすることがスピードを出すのに大事なのだろうなと感じます。

── 今まで聞いたことのない話ばかりで、新鮮です。独特ですね......。

金丸 マネはできないとよく言われます(笑)。

── ヒジ、肩を痛めた経験は?

金丸 あまりないですね。

── 自分の体に合った使い方をしているからなのでしょうね。金丸投手と言えば、父・雄一さんがアマチュア野球の審判員をしていることで知られています。もしかしたら、雄一さんから審判の目線で「こういう投手のボールが打たれない」といった話を聞いていたのではないかと想像するのですが。

金丸 そういった話は中学、高校までですね。「審判に好かれるピッチャーになれよ」という話はしていました。投球テンポやマウンドでの態度という部分が一番ですね。

── 金丸投手は「今日の球審の判定は辛いな」という試合でも、マウンドでまったく表情を変えないのが印象的です。

金丸 表情に出さないように、ということは身につきましたね。

── 身近な人が経験していた分、審判の大変さは理解できますものね。

金丸 人間がやることなので、もちろんミスすることもあります。判定に対して気に食わない態度を見せてしまうのはよくないと小さい頃から思っていたので、今も変わらないです。

── これからもマウンドで飄々と投げ続ける姿を楽しみにしています。

金丸 ありがとうございます!