オランダ1部リーグから4部リーグまで網羅した選手名鑑がオランダ全土の本屋に平積みされている。ヘーレンフェーンのMF小林祐希、フローニンゲンのMF堂安律、ドルトレヒト(2部)のファン・ウェルメスケルケン・際、DVS’33(4…

 オランダ1部リーグから4部リーグまで網羅した選手名鑑がオランダ全土の本屋に平積みされている。ヘーレンフェーンのMF小林祐希、フローニンゲンのMF堂安律、ドルトレヒト(2部)のファン・ウェルメスケルケン・際、DVS’33(4部)のMF石川乾悟。今季は4人の日本人選手が掲載されている。



小林祐希(左)と堂安律(右)がオランダリーグ開幕戦で激突

 そのなかで、ひと際扱いが大きいのは堂安だ。1部リーグのページには各チーム注目の新加入選手が紹介されており、フローニンゲンの堂安は「小野伸二(北海道コンサドーレ札幌)と本田圭佑(パチューカ)の継承者か?」というコピーとともに掲載された。

 今年の冷夏と違って、小野がフェイエノールトにやってきた16年前のオランダの夏はとても暑かった。開幕戦のスパルタ・ロッテルダム戦でベンチスタートだった小野は、後半途中から出場すると、いきなり左足からのベルベットパスでFWヨン・ダール・トマソンのゴールをアシスト。第2節のアヤックス戦では初スタメンを勝ち取った。このシーズン、フェイエノールトはUEFAカップのタイトルを獲得する。

 2007-2008シーズンの1月にVVVフェンロへ加入した本田は、1月20日のPSVアイントホーフェン戦前にオランダ人記者に向けて入団会見を行なった。壇上のアンドレ・ウェッツェル監督は「後半から本田を起用します」と宣言。その言葉どおりに、本田を後半のピッチへ送り出した。

 本田の最初のシーズンは2部降格という苦い結果に終わってしまったが、翌シーズンはキャプテンとして圧巻のパフォーマンスを披露した。チームを1部リーグ昇格へと導き、その後も大活躍を見せる。今季の選手名鑑のVVVのページにも、「誰が”NEWホンダ”になるだろうか?」というテキストとともに本田のシュートシーンの写真が掲載されていた。

 つまり、オランダメディアは堂安に対して、小野・本田というオランダ人から愛された日本人レジェンドを継ぐ才能とキャラクターを持っている、と期待しているわけだ。

 堂安はプレシーズンマッチでその才能の片鱗を見せつけ、予想どおりにオランダリーグ開幕戦のスタメンの座を勝ち取った。だが、公式戦の難しさは想像を上回るものだった。ヘーレンフェーン戦で63分プレーした19歳の若武者は、試合後に「雰囲気もよかったので楽しめました」というコメントを残したが、そこに笑顔はなかった。

 堂安のプレーを見ていて感じたのは、「試合に入り込めてなかった」ということ。テレビスタジオの解説者たちも、「堂安は存在感がなかった」とハーフタイムに感想を述べていた。堂安は相手ディフェンダーを背負ってパスを受けても潰されることなく、しっかりとマークをかわしながらターンし、前を向いてパスを出すところまではよかった。だが、そこから先の呼吸が味方とまったく合っていなかった。

 堂安の動きがよくなり始めたのは53分。センターFWのラルス・フェルトワイクのゴールで1-2とし、チームの反撃ムードが高まったあたりだろうか。相手とのデュエルに競り勝ち、パスも受け手との意図が合うようになって、試合の流れにも乗り始めてきた。

 しかし、無情にもアーネスト・ファーバー監督は63分、堂安をベンチに下げて体格のいいFWトム・ファン・ウェールトを投入する。その後、フローニンゲンは2度も追いつく粘りを見せて3-3で引き分けたのだから、堂安も「チームが同点に追いついてくれたので、感謝したいなと思います」と交代策に納得するしかなかった。

 試合後、ヨープ・ハルというフローニンゲンOBの解説者に、堂安の印象を聞いてみた。

「ボールを持ったときのプレーには才能を感じるが、その才能を発揮するには時間が必要だ。まだ19歳。しかも彼は、オランダから2時間の距離のチェコから来たわけじゃない。もっともっと遠い国から来たんだ。慣れるのに時間がかかるのは当然のこと。今日は相手の右サイドバックにスペースを与えてしまった。相手ボールのときの動きをもっと改善しないといけない。でも間違いなく、私たちが堂安のプレーをエンジョイできるようになる日は近いだろう。今は我慢だ」

 これまで多くの日本人選手がオランダリーグにチャレンジした。しかし、デビューからオランダサッカーに順応し、しかもその調子を長くキープできた選手はというと、小野伸二と小林祐希ぐらいしかいない。フェイエノールトでセンセーショナルなデビューを飾った宮市亮(ザンクトパウリ)も、やがてドリブルのパターンを読まれて対策を練られてしまった。ヘラクレスでのデビュー戦でいきなり2ゴールを決めた平山相太(ベガルタ仙台)も、やがて高い壁にぶち当たった。

 今季の目標を聞かれた堂安は「ふたケタは獲りたいですけど。早めに1点獲れれば全然できるかなと思います」と言い切った。長いシーズン、いいときもあれば悪いときもあるだろう。オランダリーグというのは、若い選手のミスを許してくれる土壌がある。そんな環境を楽しみ、ふたケタゴールという大台に向けて思い切ってチャレンジしてほしい。

 一方、オランダリーグ2年目となる小林の開幕戦は、次のステージに向けて歩み始めていると感じさせる風格をプレーに漂わせていた。ロングボールの蹴り合いになると存在感がなくなってしまうものの、地上戦で戦っているかぎりは中盤を仕切る小林が「チームの頭脳」となっていた。

 ボールがないところのポジショニングでも、小林のプレーにはいぶし銀の味わいがある。小林のポジションはインサイドハーフの左側だが、左サイドや中央でちょっとしたエアポケットを探し、自らが”浮く”ようなポジションを取っている。またディフェンスでも、相手のミスパスを誘発するようなコース切りを巧みに行なっていた。

 これからさらにステップアップするためには、たとえボランチを任されたとしても、1試合のうち何回かは相手のペナルティエリアのなかで脅威になるプレーをすることが重要となってくる。フローニンゲン戦でもそういうチャレンジを見せたシーンはあったが、シュートを放つまでには辿り着けなかった。

 堂安律と小林祐希。ふたりのクラブ内における立場は大きく異なるが、新たな自分を作っている最中であることに違いはない。そんな彼らがチャレンジする姿を今季は楽しみたい。