グラウンドに亀裂、校舎の周囲の地面も割れ、水も止まった――。元日の能登半島地震で被害を受けた石川県勢として、第96回選抜高校野球大会に臨んだ星稜と日本航空石川。両校の熱戦に全国が注目した。 3月18日の開会式。両校の名が呼ばれると、スタン…

 グラウンドに亀裂、校舎の周囲の地面も割れ、水も止まった――。元日の能登半島地震で被害を受けた石川県勢として、第96回選抜高校野球大会に臨んだ星稜と日本航空石川。両校の熱戦に全国が注目した。

 3月18日の開会式。両校の名が呼ばれると、スタンドからはひときわ大きな拍手があがった。

 選手たちは阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)のグラウンドの真ん中あたりで隣同士に並び、返還される優勝旗を見つめていた。

 「ガンバレ能登!!」。4年ぶり3回目の出場の日本航空石川の初戦、スタンドに横断幕がたなびいた。能登地方の高校からも野球部員らが応援に駆けつけた。

 常総学院(茨城)を相手に0―1で、あと一歩だった。宝田(ほうだ)一慧(いっけい)主将(3年)は「苦しい思いをしてきたが、いろんな人たちの支えで野球ができた。勝てなかったが、自分たちの全力プレーが届いてくれたら」と語った。中村隆監督(39)もスタンドの拍手に「場所が変わって思い通りの生活できなかったときのことを思い出した。背中を押してくれた」と話した。

 その思いを引き継いだ星稜。「野球で元気に」ではなく、「我々にできることをやって、見ている方々に何か感じてもらえたら」と、山下智将(としまさ)監督(42)は被災地への思いを語っていた。

 出場は2年ぶり16回目。下位打線や完封した戸田慶星(けいた)投手(2年)ら控え選手も活躍した。

 「石川県、負けてられない」。山下監督は23日の練習後に語った。「能登半島から来た高校球児や親しい先生に会い、うれしくて思わず。気負う必要はないが本音なんだよ、と選手に話した」。後日、こう説明した。

 その気持ちに応えるように勝ち進み、石川県勢で初の選抜大会4強入りを果たした。

 準決勝は、後に初優勝する健大高崎(群馬)に4―5と善戦した。芦硲(あしさこ)晃太主将(3年)は「石川県だけでなく、たくさんの方が応援してくれて、感謝しかないです」「もう一回チームで気を引き締めていきたい」と夏を見据えた。

 閉会式では、日本高野連の宝馨(かおる)会長が「日本航空石川は星稜とともに元気と勇気を届けてくれた」とたたえた。

 被災地に全力プレーを届けたいと、戦った両校。その思いは能登半島にも届いたにちがいない。(小崎瑶太)

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 ■星稜主将「もう一度あの素晴らしい場所へ」

 星稜高校の野球部は31日、金沢市の母校に戻った。出迎え式では、部員や保護者ら約50人が、選手の健闘をたたえた。

 鍋谷正二校長は「県勢初のベスト4の快挙を成し遂げたが、悔しい思いもしたはず。敗れて泣く姿を見て、まだまだ成長できると確信した」と励ました。

 山下智将監督は能登半島地震に触れた。「石川のために頑張りたいという思いを選手も心に留めて戦ってくれた。県民のみなさまから見えないパワーをたくさんいただいた。ありがとうございました」

 芦硲晃太主将は「たった一つのミスで負けることを学んだ。もう一度あの素晴らしい場所に戻れるよう、明日から練習に励みます」と、夏に向けた意気込みを語った。(椎木慎太郎)