阪神甲子園球場で開催中の第96回選抜高校野球大会に、神奈川県勢の姿はない。選考材料の一つだった昨秋の関東大会での成績が振るわず、ここ30年で8回目の静かな春を迎えた。 出場を逃した有力校は夏に向けて、力を蓄えている。 甲子園で春3回、夏2…

 阪神甲子園球場で開催中の第96回選抜高校野球大会に、神奈川県勢の姿はない。選考材料の一つだった昨秋の関東大会での成績が振るわず、ここ30年で8回目の静かな春を迎えた。

 出場を逃した有力校は夏に向けて、力を蓄えている。

 甲子園で春3回、夏2回の優勝経験がある横浜。秋の県大会で準優勝、関東大会は初戦敗退に沈んだ。椎木卿五(しいぎけいご)主将の視線はまっすぐ定まっている。

 「悔しいけど、選抜大会はきちんと見る。うちが優れているところ、出場校から学べるところを探して、夏に優勝するために備える」

■「やっと春がやってきた」

 昨夏の神奈川大会決勝。3連覇をめざした横浜は、土壇場で優勝を逃した。

 2点リードで迎えた九回、併殺を狙った緒方漣選手(国学院大に進学)のプレーがオールセーフとなり、エース杉山遥希投手(西武に入団)は決め球のチェンジアップを左翼席に運ばれた。

 本塁を駆け抜ける慶応の3選手を捕手として見送った椎木主将は「逆転ホームランを打たれた時のことは今も鮮明に思い出せる」と苦い顔を見せる。

 投打の柱だった緒方、杉山両選手が抜け、再出発した秋は「勝負どころで決められなかった」。県大会だけで3度のタイブレーク、36失点と振るわなかった。

 結果が出ない事実と向き合いながら過ごした冬は、各自が筋力アップに取り組み、強化期間には1日約1千本振り込んだ。

 その結果、練習試合では打線につながりが出てきたという。

 新基準の低反発バットでも、「センター方向にライナー性の当たりを意識することで、長打も生まれている」。

 椎木主将は「選抜に出るため努力してきたのに、関東大会で負けて目標がなくなった時もあった。でも、やっと春がやってきた」と意欲を燃やす。

 秋の県大会で背番号1を付けた青木朔真(さくま)選手も、決意を胸に春を迎えた。

 「夏の決勝で負けた後、杉山さんたちから『秋はお前がエース。頑張ってほしい』と言われたが、結果を残せなかった。先輩方の期待を裏切らないプレーをしたい」と意気込む。持ち味という回転数や球威にこだわってきた。

 投手陣は、青木選手、関東大会でエースナンバーを背負った安松辰(とき)選手、そして注目株の左腕・奥村頼人(らいと)選手らがしのぎを削る。野手陣は、悪送球でもアウトをもぎ取る粘りのプレーで援護する。

 村田浩明監督は「試す春ではない。春、夏、代替わりの秋まで全てのタイトルをとるため、想定外のことが起きても勝てるチームを作る」と前を見据える。

■東海大相模、横浜商なども有力

 強豪校ひしめく神奈川の頂点をめざし、冬を乗り越え、春を迎えたチームはいくつもある。

 春夏計5回の全国制覇の実績をもつ東海大相模は、昨夏4強で敗退した。

 秋の県大会は、右腕・福田拓翔選手が準々決勝の日大藤沢戦を9奪三振で完封する好投を見せるなど、4試合を1失点で勝ち上がり、準決勝に。しかし、横浜に延長十回でサヨナラ負けし、決勝進出を逃した。

 今春は、大型左腕・藤田琉生選手や、準決勝で本塁打を放った和田勇騎選手らの活躍も期待される。

 昨夏の神奈川大会、横浜との「YY対決」で決勝進出を阻まれた横浜商。昨秋の県大会でも準々決勝で横浜と対戦。5点を奪われた直後の五回、門脇嵩世(こうせい)主将の犠飛などで5点を返し、試合を振り出しに戻す粘りを見せた。

 だが、その裏に3失点し、敗退。「思うような試合ができないから、やりたくないチーム」(横浜の村田監督)と警戒されている。

 横浜創学館は、昨夏の神奈川大会でエースを任された右腕・鈴木圭晋(けいしん)投手が秋の新チームでも1を背負い、夏と同じく8強まで勝ち上がった。

 その横浜創学館を破ったのが鎌倉学園だ。エースで4番の面本(おももと)和輝主将のもと、ノーシードで4強入りし、選抜大会の21世紀枠にも推薦された。

 昨年の夏、秋ともに8強の日大藤沢は、1年時から出場する捕手の斎藤優汰選手(2年)らがチームを引っ張る。

 昨秋優勝した桐光学園を4回戦で延長十回まで追い詰めた武相をはじめ、甲子園経験のある桐蔭学園、法政二、横浜隼人も注目だ。

 3回戦で昨秋準優勝の横浜と延長十回まで戦った向上、2年生投手3人を中心に昨夏8強入りした相洋なども機会をうかがう。