(28日、第96回選抜高校野球大会準々決勝 健大高崎6―1山梨学院) チラッ、チラッと、山梨学院の吉田洸二監督がブルペンを見やる。 「なんとか、五回(が終わる)までは……」 先発の2年生左腕、津島悠翔の制球が乱れたのは、その五回だった。先…

 (28日、第96回選抜高校野球大会準々決勝 健大高崎6―1山梨学院)

 チラッ、チラッと、山梨学院の吉田洸二監督がブルペンを見やる。

 「なんとか、五回(が終わる)までは……」

 先発の2年生左腕、津島悠翔の制球が乱れたのは、その五回だった。先頭から四球、犠打、四球。暴投も絡んで1死一、三塁となり、連打で2点を先制された。さらに1死後、走者を2人置いて相手の4番箱山遥人を迎えた。

 ブルペンで準備していたエースの桜田隆誠が一瞬、マウンドに向かいかけた。が、交代は告げられない。

 「津島にかけた」と監督。昨秋3完投の桜田は大会前に体調を崩し、完調手前。その穴を埋めるように1、2回戦で先発し、好投したのが津島だった。

 この日も四回まで被安打2で無失点。突如乱れたのは、左手中指の爪が割れたから。左腕は「自分の中でちょっと弱気になってしまった」。

 捕手の横山悠も異変を感じていた。2点を失ったところでマウンドに向かおうとしたが、投手への声かけは1イニングに1回だけ。すでに一度行っていたため、審判に制止された。

 相手は動揺を見逃してくれない。箱山に甘い直球を2点三塁打にされた。「打線は取れて3点」という監督の想定を超える4点差。あまりに重かった。

 1―6の敗戦。ただ、吉田監督は試合後、「(選手を)ほめてやりたい」と言った。昨春の優勝メンバーがほぼ残っていない中での8強入り。「エースのアクシデントがあった中、いいものが見られたかな」

 元々ベンチに入る予定もなかった津島の成長も含め、連覇以上の財産だ。(大宮慎次朗)