報徳学園(兵庫県西宮市)は28日の選抜大会準々決勝で大阪桐蔭と対戦する。学生コーチとしてチームを支えるのが大阪工業大学3年の安井龍玄さん(21)=同県尼崎市=。同校野球部OBで、夏の甲子園が中止された年の3年生。甲子園に連れてきてくれた後…

 報徳学園(兵庫県西宮市)は28日の選抜大会準々決勝で大阪桐蔭と対戦する。学生コーチとしてチームを支えるのが大阪工業大学3年の安井龍玄さん(21)=同県尼崎市=。同校野球部OBで、夏の甲子園が中止された年の3年生。甲子園に連れてきてくれた後輩に感謝し、準優勝した昨年以上の結果を待っている。

 選抜1回戦、報徳学園は愛工大名電(愛知)に延長十回でサヨナラ勝ちした。スタンドで戦況を見守っていた安井さんは「『逆転の報徳』の通りに、接戦を制する報徳学園らしい野球ができた」と声を弾ませた。

 高校で入学した報徳学園のレベルの高さに驚いた。練習へ取り組む姿勢も想像を超えた。

 同じ二塁手だけでも、10人以上のライバルがいた。メンバーに入るため、努力を重ねた。

 午前4時半に起床。同5時半から学校で打撃や守備を自主的に練習した。午後9時過ぎから、自宅前の街灯の下で素振りを繰り返した。2年の秋に新チームが発足してベンチ入りできなくても、腐ることなく練習に明け暮れた。

 3年生の5月下旬、河川敷で自主練習を終え、自転車で自宅へ帰る途中のことだった。ポケットに入れていたスマートフォンが鳴った。画面を見ると、「夏の甲子園が中止になった」とあった。LINEグループで部員が投稿していた。「うそやろ」。頭の中が真っ白になった。

 その日の夜。野球部の緊急オンラインミーティングが開かれた。

 「誰も責めることはできへん。誰のせいにもできへん。何て声をかけていいのか、正直分からへん」。約40人の3年生に大角健二監督(43)が語りかけた。

 スマホの画面に映っていた多くの部員たちが泣いているようだった。下を向いたり、目頭を押さえたり……。「もう甲子園に出られへんのや」。安井さんは、あまりの喪失感に涙が出なかった。

 6月上旬、無観客の独自大会の開催が決まった。チームは「県内の公式戦を無敗で終わろう」と目標を掲げた。安井さんも「公式戦に初出場できるように頑張る」と気持ちを切り替えた。

 独自大会の全4試合で、初めてベンチ入りした。1イニングだけ二塁手の守備についた。大会が終わると、「野球に全力を出し切った」という思いと、「このまま終わってもいいのか」という気持ちが交錯した。

 翌21年2月の卒業式の直後。大角監督に呼ばれた。「練習を教えに来ないか」と誘われた。「ベンチ入りができず苦しい経験をしても、腐らずに人一倍の努力を続けてきた模範生。メンバー外の部員の気持ちもよく分かっている」(大角監督)ためだった。安井さんは「はい行きます」と即答した。

 大学1年生の頃は週1回、昨春からは週3回ほど、コーチを務めている。主にメンバー外の部員にノックを打ったり、打撃投手を務めたり。「どうしたら上達するのか」「努力をしているのに結果が出ない」といった相談を受けることも多い。「素質がある」と褒めたり、「困難から逃げていてはだめ」と厳しい言葉をかけたりもする。

 部員が成長していく姿を近くで見ることが、一番のやりがいだ。「選手にはこれまで支えてくれた人へ感謝の気持ち忘れずに、甲子園でプレーしてほしい。試合ではスタンドの部員の応援を力にして、今年こそ優勝を」と願っている。(森直由)