野球をしているすべての人のお手本になるようなピッチングだった。120キロ台のストレートでも強打者を抑えられることを、山梨学院のサウスポー・津島悠翔(はると)は証明してみせた。創志学園戦に先発し、6回1/3を無失点に抑えた山梨学院・津島悠翔…

 野球をしているすべての人のお手本になるようなピッチングだった。120キロ台のストレートでも強打者を抑えられることを、山梨学院のサウスポー・津島悠翔(はると)は証明してみせた。


創志学園戦に先発し、6回1/3を無失点に抑えた山梨学院・津島悠翔

 photo by Sankei Visual

【30キロの緩急差で相手打線を翻弄】

 3月26日の2回戦、創志学園(岡山)戦の先発マウンドに上がった津島は、120キロ台前半のストレートと、90キロ前後のスローカーブとスライダーを駆使して、創志学園打線に1点も与えなかった。6回1/3を投げて3安打、3奪三振。

 0対4で敗れた創志学園の門馬敬治監督は「攻撃の糸口を見つけられなかった」と試合後に話した。

 津島の投球を見ながら、2019年春のセンバツで準優勝した習志野(千葉)の背番号17の姿を思い出した。

 プロ野球が注目する星稜の奥川恭伸(現・ヤクルト)と2回戦で対戦した習志野の先発・岩沢知幸は、1回2/3を投げて1失点をしたものの、エースの飯塚脩人につないだ。飯塚が7回1/3を3安打無失点(投球数は96)に抑えて、逆転勝ちを呼び込んだ。

 アンダースローの岩沢が投げるのはストレートとカーブの2種類。ストレートの最速は116キロ。その大会で先発した投手のなかで「最遅」だった。相手打者は岩沢のピッチングにフォームを崩された。そのあとに登板した飯塚の140キロ後半のボールがより速く感じたはずだ。

 秀岳館(熊本)の監督として4シーズン連続で甲子園に出場し、そのうち3度ベスト4進出を果たした鍛治舎巧監督(現・県立岐阜商業)に投手の指導法について聞いたことがある。

「ピッチャーには、マックスは130キロ台でもいいから90キロのボールをつくれと言っています。40キロの差があれば打ち取れるから。マックスを伸ばす練習をしながら、緩急の差を大きくするように」

 ストレートの球速は10キロほど足りないが、この法則は津島のピッチングにも当てはまるようにも思える。

 津島を巧みにリードした山梨学院の捕手・横山悠は言う。

「とにかくストライク先行を心がけました。立ち上がりはボールが続きましたが、それ以降はカーブでストライクが取れました。津島はコントロールがいいので、遅いボールを投げることに対する怖さはありません。ストライク先行でいけたことがいいピッチングにつながったんだと思います」

 今回から変更になったバットも影響していると言う。

「打球が飛ばない分、緩い球でも勇気を持って投げられるというのはあると思います。外野の頭を越えるような大きなフライになっても捕ってくれるので」

 創志学園の打者は、スローカーブを見逃し、追い込まれてゴロを打つか、力んでフライを打ち上げることが多かった。

【盤石の継投でベスト8進出】

 7回途中からは右の桜田隆誠がマウンドに上がり、3安打を打たれながら0点に抑え、完封リレーを完成させた。桜田もまた技巧派だ。

「桜田さんは腕の位置がサイド気味でスライダーが得意なピッチャーです。(140キロを超えるような)速い球はありませんが、変化球をうまく使えば打ち取ることができます」(横山)

 それそれの特徴を生かしたリードをするためには、相手の分析は欠かせない。横山は胸を張る。

「試合前に相手の映像を見て、研究しています。事前にしっかりと準備ができているので、試合で慌てることはありません」

 ベスト8に進出した山梨学院の役割分担は明確だ。京都外大西(京都)との1回戦では津島が6回まで投げ、残りの3回を桜田が抑えた。この日もほぼ同じタイミングでの継投になった。津島は言う。

「とにかくストライク先行で投げることを考えました。ボールが続いた時、野手に『ストライクを投げろ』と言ってもらって、落ち着いて投げることができました。変化球もストレートも低めに投げることだけを考えて。甲子園は夢の舞台だったんですけど、初戦に続いて2回戦も先発させてもらってうれしい。楽しい場所です」

 津島はストレートの最速は128キロ。まだ2年生になったばかり、伸びしろはある。

「やっぱり球速を上げていかないと通用しないと思います」

 準々決勝で対戦する健大高崎(群馬)は、秋の関東大会準決勝で勝利したが、侮れない相手だ。津島は言う。

「『目の前の試合をしっかり勝とう』とチームで言っています。健大高崎は強いチームですが、ストライク先行を意識して、平常心で投げたい」

 関東大会準決勝で先発し3回途中で降板した津島が、プランどおり、6回あたりまでマウンドを守ることができれば勝利が見えてくる。