角田裕毅は、目の前にそびえ立っていた『11位の壁』をいとも容易く乗り越え、オーストラリアGP決勝で7位入賞を果たしてみせた。 いや、正しくいえば、いとも容易く見えるほどに完璧なレースで、高い壁を乗り越えてみせた。「今週末は走りはじめからス…

 角田裕毅は、目の前にそびえ立っていた『11位の壁』をいとも容易く乗り越え、オーストラリアGP決勝で7位入賞を果たしてみせた。

 いや、正しくいえば、いとも容易く見えるほどに完璧なレースで、高い壁を乗り越えてみせた。

「今週末は走りはじめからスムーズに、マシンに対する自信をビルドアップすることができましたし、ずっと安定してトップ10にいられるマシンだったと思います。これは間違いなく、すばらしい準備をしてくれたチームのおかげです」


角田裕毅がメルボルンで最高のレースを見せてくれた

 photo by BOOZY

 VCARB 01は金曜から非常に乗りやすく、昨年とは比べものにならないくらいにハードブレーキングもターンインも攻めたドライビングが決められる状態だった。

 そこからさらに、金曜から土曜にかけて0.01秒単位の小さなファインチューニングを積み重ね、さらに自信を持って攻められるマシンに仕上げていった、その結果が『予選8位』という今季最上位グリッドだった。

「金曜の時点でもかなりよかったんですけど、そこからさらにあちこちを少しずつ、1/100秒台のセットアップのアジャストができた。そこがよかったなと思います。

 これだけタイトな状況なので、予選で自分が100パーセントに近いアタックができれば、それなりにいいポジションに行けるというモチベーションもあります。ひとつひとつのコーナーを最大限に突き詰めつつ、思いきって走れるようにしています」

 予選ではマシンの持つポテンシャルを最大限に引き出し、自分自身の力も出しきる。今年の角田がシーズン開幕前からこだわってきた"クオリティ"の追求が、まさにそれだった。

 開幕2戦では入賞圏を走りながらも、ずるずるとポジションを落として、ポイントを獲得できなかった。

 しかし、レースペースが遅かったわけではなく、戦略やバトルなどの"クオリティ"を突き詰められなかったからこその結末だった。どんなに速さがあろうと、ほんの小さなミスや綻びでポジションを大きく落としてしまうのが、今の"超僅差"のF1だ。

【最後のピットストップまで耐え続けた終盤】

 メルボルンは毎年、荒れたレースになる。トップ5チーム10台がリタイアしなければ『11位の壁』はそう簡単に破ることはできない。だが、メルボルンならば、そのチャンスはいつもより大きい。

 そんなレースだからこそ、しっかりと中団グループの最上位に立ち続けておく必要がある。

 8番グリッドからスタートした角田は、スタートでランス・ストロール(アストン・マーティン)に抜かれ、最初のピットストップでルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)にアンダーカットされた。しかし、そこに焦りはなかった。彼らは、自分が戦うべき相手ではないからだ。


今季初入賞で角田裕毅にようやく笑顔が戻った

 photo by BOOZY

「ターン1で(ストロールに)行かれたのは仕方ないですし、ハミルトンはどちらにしてもペースがいいのはわかっていたので、特に焦りはしなかったですね」

 その言葉どおり、RBと角田が対したのは上位勢ではなく、中団トップを争う相手であるハース勢やウイリアムズのアレクサンダー・アルボンの動きを見ながら、彼らの前でコースに戻ることができるタイミングでピットインを済ませていった。

 例年よりも1ステップ柔らかいタイヤが持ち込まれた今年は、ハードタイヤですらグレイニング(表面のささくれ)が起きてグリップ低下と磨耗が進んだ。その苦しい状況のなかで、タイヤをいたわり、なおかつペースを落とさず、ライバルたちにつけ入る隙を与えない走りが求められる。

 数秒後ろにニコ・ヒュルケンベルグとケビン・マグヌッセンのハース勢を抱えながら、アンダーステア傾向の強まるタイヤを傷めないようにいたわりつつ、前のストロールを追いかけていく。レース中盤から終盤にかけて、最後のピットストップまで耐えなければならない時間帯が最も厳しかった。

 レースエンジニアのマッティア・スピニも、ステアリング上で変更できるブレーキバランスやデフの調整をアドバイスして、なんとかマシン挙動を改善させると同時に、角田のメンタルを理解し支えるように鼓舞する。

「裕毅、君はよくやっているよ。このまま続けていこう、今ががんばりどころだ」

「裕毅、リミテーション(制約要素)はフロントタイヤだけか? それならシェイプ2、エントリー3。なんとか耐えるんだ」

【週末を通して中団最上位のポジションをキープ】

「最初にプッシュしすぎるとグレイニングのリスクが高まるので、できる範囲でマネジメントしながら走って、(タイヤが安定した)その後はペースもよくて後続を引き離すことができた。レース終盤はタイヤはいい状態だったので、少しずつプッシュしていきました。チームからの指示もよかったと思いますし、自分自身もうまくマネジメントができたかなと思います」(角田)

 最後のスティントに入り、最初はタイヤを傷めないように抑えて走り、安定してきたところでペースを上げる。すると、ハース勢とのギャップはじわじわと広がっていった。今週末のVCARB 01には速さがあり、それを戦略とタイヤの使い方とバトルで完璧にゴールまで運んだのが、RBと角田だった。

 そして、長かったレースはようやく58周目のチェッカードフラッグを迎えた。

 中団グループ最上位の角田は、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)とハミルトンのリタイアによって『11位の壁』を越え、8位でフィニッシュすることになった。

 さらにレース後、ジョージ・ラッセル(メルセデスAMG)をクラッシュに追い込んだフェルナンド・アロンソ(アストン・マーティン)にドライブスルーペナルティ(20秒加算ペナルティ)が科された。そのことで、角田はなんと7位入賞を果たすことになった。

「今日はチームもミスなく完璧な戦略をしてくれましたし、僕もミスなくまとめられたと思います。ポイントが獲れるかはどうあれ、まずはミスのないレースで自分たちにやれることをすべてやりきるのが目標だったので、それが達成できたことが一番の自信につながります」

 リザルトが7位であれ11位であれ、それは他車の脱落という運でしかない。しかし、中団グループ最上位のポジションをレース週末を通して確固たるものにできたのは、間違いなくRBと角田の実力だった。

【角田裕毅は日本GPで連続ポイント獲得なるか】

 次は、初の春開催となる日本GPだ。

「今回はいいかたちでレースをまとめあげることができたので、鈴鹿にも自信を持っていけると思います。日本GPに向けて、日本のみなさんに少しでも期待を持ってもらえる走りができたのはよかったと思います。

 日本GPではまだポイントを獲得できていないので、今年はそれを果たしたいと思いますし、そこに向けて今回はいい自信になりました。鈴鹿に向けてリセットして、またチーム全体でプッシュしていきたいと思います」

 ついに11位の壁を越え、新生RBと角田に眩しすぎるほどの光明が射してきた。