【茨城】(25日、第96回選抜高校野球大会1回戦 常総学院1―0日本航空石川) 小雨が降りしきる中、選手たちの吐く息は白い。しかし試合に向き合う選手たちの熱気は高まっていた。 六回表、1死三塁。ライトへ飛んだフライで、三塁走者の池田翔吾選…

 【茨城】(25日、第96回選抜高校野球大会1回戦 常総学院1―0日本航空石川)

 小雨が降りしきる中、選手たちの吐く息は白い。しかし試合に向き合う選手たちの熱気は高まっていた。

 六回表、1死三塁。ライトへ飛んだフライで、三塁走者の池田翔吾選手(3年)は本塁へ生還し、唯一の得点をつかんだ。その直後の守備では、中堅手として左中間に抜けそうな打球に突っ込んでダイビングキャッチした。

 「大変な状況なのに相手は甲子園に向けて(チームを)仕上げてきた。積極的に攻撃を仕掛けてもきた。自分たちも『やってやるぞ』と気合が入っていた」

 能登半島地震で被害に遭った日本航空石川が相手に決まり、大会が開幕した3月18日夕方、選手が泊まるホテルで「講義」があった。ここに呼ばれたのは、背番号9の鈴木駿希選手(3年)の父、鈴木仁さん(44)。神奈川県の川崎市消防局の消防士で、1~2月に3回にわたって日本航空石川のある輪島市を中心に安否不明者の救助・捜索活動にあたった。

 倒壊した家屋、傾いた電柱、陥没したり隆起したりする道路、降り積もる雪。仁さんは40分間、写真を見せながら被災地の様子を伝えた。「常総学院の保護者」ではなく「消防士」として。選手たちは真剣に聴き入った。

 仁さんは、こう結んだ。「命を失うかもしれない経験をした彼らは、支えてもらうことへの感謝や期待に応えたいという思いが、普通とは違う。でも、どちらが重いということではなく、全力でプレーする姿で感謝に応えようとする熱量は(常総も)同じ」

 全力で向かってくる相手に、常総も全力で応えてほしいという願いを込めた。

 試合後、119球を投げきった小林芯汰投手(3年)は「手ごわいチームだった。全力で楽しむ姿を見ると、野球ができているのは当たり前ではないことが身に染みた」

 真剣勝負で得た1勝。みんな、達成感に満ちた表情をしていた。(富永鈴香)