1年目からの活躍が期待されている藤浪晋太郎「ピッチャーとしてもバッターとしても対戦したいです」 2012年12月25日、北海道日本ハムファイターズの入団会見で、藤浪晋太郎との対戦について大谷翔平がそう答えていた時、藤浪は大阪桐蔭のグラウンド…



1年目からの活躍が期待されている藤浪晋太郎

「ピッチャーとしてもバッターとしても対戦したいです」

 2012年12月25日、北海道日本ハムファイターズの入団会見で、藤浪晋太郎との対戦について大谷翔平がそう答えていた時、藤浪は大阪桐蔭のグラウンドにいた。

「いつか対戦できるとしたら、お互いピッチャーとして投げ合いたいです。大谷くん自身もピッチャー希望だと思いますし」

 阪神の入団が決まった藤浪は、12月に入っても、時折、小雪が舞うグラウンドで黙々と練習を積んでいた。左中間後方にある山の傾斜を利用しての坂道ダッシュ。山道でのロング走。そしてブルペンでも力のこもったピッチングを繰り返していた。

「自分は投げないとダメなタイプなので、年が明けても投げますし、そのまま1月10日から自主トレに入ると思います。プロに行くからといって、特別何かをするとか、変えるとか、そういうのはないです。少し足が太くなったと言われますけど、今の状態を落とさないようにするだけです」

 プロの第一歩となる合同自主トレが迫っても一切の気負いがない。口にするひとつひとつの言葉もじつに落ち着いている。「記者の人は、僕の話を聞いても面白くないだろうなと思います」と笑ったが、いち早く"プロの世界"を実感しているのは、連日の報道だろう。新聞、テレビがこぞって阪神の希望の星である藤浪の情報を、毎日のように発信し続けている。

「報道に関しては、想像以上でした(笑)。この間も学校の帰りに電車に乗っていたら、僕の前にいた人が読んでいたスポーツ新聞の一面に僕が出ていて......。何も言っていないのに、すごいなと......」

 それだけの注目を集めるのは、期待の表れでもある。あらためてプロ1年目の意気込みを聞くと、次のような答えが返ってきた。

「どうしても開幕一軍というのはありません。もちろんそこ(開幕一軍)は目指しますし、結果としてそうなれば嬉しいですけど、絶対にそこにいなきゃいけないという気持ちはないです。今の自分のレベルでは通用しないと思っていますから」

 具体的に、今の自分に足りないと感じている部分はどこなのか。

「微妙なコントロールとか、変化球のキレとか。それにボールの出し入れ、駆け引き、投球術......足りないところばっかりです。コントロールも、高校生ならミスショットしてくれた球が、プロではそうはいかないと思います。もっと精度を上げていかないとダメでしょうね」

 ただ、統一球の導入により、現在のプロ野球は投高打低時代に突入した。ある球団のスコアラーは次のように語った。

「統一球が導入されてから、失投してもそれが致命傷になることが極端に減りました。一定のコントロールと、力のあるボールを備えた投手は、ものすごく可能性が広がったと思います」

 その話を藤浪にもすると、楽天の釜田佳直の話題になった。2012年シーズン、高卒1年目ながら7勝を挙げた釜田の活躍は、当然、藤浪も知っていた。

「ニュースでしかピッチングは見ていないんですけど、真っすぐの質が高校の時とは明らかに違うと思いました。2011年の夏、甲子園で歳内(宏明/現・阪神)さんと投げ合った試合をテレビで見たことがあったのですが、その時とはキレが全然違う。1年目からすごいなと思いましたし、だからこそすぐに活躍できたんだと思いました」

 その釜田について、多くの関係者が称賛したのは「吸収力の高さ」だった。だが藤浪もその部分に関しては負けていない。以前、大阪桐蔭の西谷浩一監督が藤浪について、「2005年に夏の甲子園ベスト4の辻内(崇伸/巨人)のキャパと2007年夏の甲子園優勝投手の福島(由登/青山学院大→HONDA)の頭を持ったタイプ」と説明したことがあった。つまり、150キロを投げる実力を擁しながらも、力に頼ることなく、考えてピッチングをする投手という意味だ。現時点で、「プロでも十分にやっていけると感じている部分は?」と尋ねると、自らの内面を挙げた。

「気持ち、考え方の部分での不安はないです。マウンドでパニックになるようなことはないですし、落ち着きや修正能力というところも、自分なりに自信はあります。これまで見てきて、いい投手というのは修正能力が高い。今日は調子が悪いから『アカン』ではなくて、悪いなら悪いなりのピッチングがいかにできるか。それができたから、高校で結果を出せたのだと思います」

 まだタテジマのユニフォームをまとって投げる姿は浮かばないと言ったが、甲子園のマウンドの感触ははっきり残っている。

「本当に投げやすくて、大好きなんです。マウンドの高さは、夏の大阪大会で投げた京セラドームの方が高いんですけど、甲子園は傾斜が緩やかで体重移動がしやすいんです。それにバッターとの距離がすごく近くに感じられて、そのことも投げやすい理由のひとつかもしれないですね」

 そのマウンドに立ち、阪神ファンを酔わせる日はいつ巡ってくるのか。このオフに阪神は福留孝介、西岡剛といったメジャー帰りの強打者を獲得するなど、大型補強を見せたが、チーム作りという点では過渡期にあることは間違いない。一時的に外部から戦力を獲得している状況ではあるが、最終的な目標は生え抜き選手の育成である。長年、チームが積み残してきた課題も背負ってのプロ入りとなる。

「まだそんなことを考えられる立場ではないですけど、将来的には自分が活躍してチームをいい方向に持っていければ嬉しいですね。かつて日本ハムはダルビッシュ(有)投手が入り、楽天も田中(将大)投手が入ってからチームが変わったと思います。自分もそういう存在になりたいですね」

「自分には合っていると思う」と言った背番号19を背負い、甲子園を沸かせる日は――意外とすぐにやって来そうな気がする。