第96回選抜高校野球大会に初出場した別海を、食事指導で釧路市からサポートする人がいる。合宿施設を運営するNPO法人「東北海道スポーツコミッション」の管理栄養士、楠ひかるさん(29)だ。別海町まで約100キロ離れているため普段は選手とは会え…

 第96回選抜高校野球大会に初出場した別海を、食事指導で釧路市からサポートする人がいる。合宿施設を運営するNPO法人「東北海道スポーツコミッション」の管理栄養士、楠ひかるさん(29)だ。別海町まで約100キロ離れているため普段は選手とは会えないが、楠さんは毎日、専用アプリで選手一人ひとりの食事をきめ細かくチェックしてアドバイスしてきた。

 別海は釧根地区の試合会場であるウインドヒルひがし北海道スタジアム(釧路市)まで遠く、当日移動では間に合わない。そのため春夏秋の地区大会や練習試合の際、同法人が運営する合宿施設を利用する。

 楠さんは同法人の職員で施設の献立づくりや弁当のメニューを考案する。試合開始時間から逆算し、移動や準備運動の合間で食べる補食の内容を変えるなど、アスリートに寄り添った食事を提供してきた。昨秋からはさらに踏み込み、別海の施設利用日以外も、選手たちの栄養指導を担い始めた。

 きっかけは昨秋の釧根地区代表決定戦だった。

 球場で観戦した楠さんは「いつも合宿所でいい食べっぷりを見せてくれる選手たちが、グラウンドではつらつとプレーする姿を見て心が奪われた」という。島影隆啓監督に「もっと真剣に選手たちの力になりたい」と申し出たという。

 楠さんは昨秋の全道大会終了後に別海高校までおもむき、選手全員と面談。春までにどんな体格になりたいか。また、どういうプレーをするために、その体格をめざすのかを全員から聞き取った。

 選手からは「打球を飛ばすためにまず増量したい」「走力を得るために瞬発系の体になりたい」などと回答があったという。

 楠さんは回答に基づき一人ひとりに体重などの目標を設定。冬場の体づくり期間は最低でも1日4500キロカロリーを摂取するよう促した。成人男性の1日の摂取カロリー目安の倍だ。

 どんな食事の場面でも、自らの感覚でカロリー数を計算できるように、茶わん1杯分のご飯を手に乗せて、ご飯のグラム数がわかるよう訓練もしたという。

 選手たちは毎日、食べた物をアプリに記録。楠さんがチェックする。

 おにぎりの具は何がいいですか▽練習中におなかがすいたら何を食べればいいですか▽朝ご飯が食べられないとき、菓子パンでもいいですか……

 こうした選手たちの質問に楠さんがアドバイス。全員が3月までに設定した目標体重を達成した。エースの堺暖貴投手(3年)は、6キロ増量に成功し「強い球が投げられるようになった」と手応えを話す。

 楠さんは「甲子園を目標にするには練習も大事だけど、野球ができる体づくりはもっと大事。体づくりに技術は関係なく、食事への意識を変えるだけで誰でもできる」と、心構えを説いてきた。

 いまでは練習前、選手が弁当を食べながら、具材や栄養素の会話をしているという。その話を聞いた楠さんは「栄養士冥利(みょうり)に尽きます」と笑顔を見せた。

 同法人専務理事の小笠原健容さん(49)も、楠さんに期待を寄せる。「別海の活躍で楠も成長している。この相乗効果は地域スポーツの底上げにつながる」

 同法人では選抜出場を機に、楠さんを甲子園に派遣。宿舎の調理師らと意見交換をする予定だという。小笠原さんは「全国レベルの栄養指導を学んできて欲しい」と話した。(佐々木洋輔)