(19日、第96回選抜高校野球大会1回戦 健大高崎4―0学法石川) 先頭打者が三振に倒れて迎えた初回の初打席。「自分がチャンスメイクしないと」。2番福尾遥真選手(3年)はバットを強く握った。いきなり2ストライクに追い込まれ、本能で振った3…

 (19日、第96回選抜高校野球大会1回戦 健大高崎4―0学法石川)

 先頭打者が三振に倒れて迎えた初回の初打席。「自分がチャンスメイクしないと」。2番福尾遥真選手(3年)はバットを強く握った。いきなり2ストライクに追い込まれ、本能で振った3球目。つまった打球は中堅手の手前に落ち、チーム初安打となった。得点にはつながらなかったが、この日、チーム最多の3安打の活躍をみせた。

 「All is well(きっとうまくいく)」。試合当日の朝、皆で帽子のつばの裏に書き込んだ。3日前、滞在先のホテルでチームで鑑賞したインド映画のタイトルだ。正捕手で投打の要だった大栄利哉選手(2年)が大会直前に負傷した。沈みがちなチームの士気をあげようと、佐々木順一朗監督が選んだ映画だ。

 「大栄の活躍で甲子園という舞台に来ることができた。今度は先輩の自分たちが引っ張る番だ」。そう気持ちを切り替え、先輩としての意地を見せた。ショートの守備についた時も地面に「うまくいく」と指で書いた。その言葉通り、ミスなく守備をこなした。

 福尾選手には、甲子園での姿をどうしても見せたかった人がいる。母の友美さん(50)だ。同じくベンチ入りした弟の翔(つばさ)選手(2年)と自分を、幼稚園の頃からひとりで育ててくれた。

 毎夏、住んでいた千葉県から甲子園まで高校野球を息子たちに見せるために車で往復してくれた。福島への進学後も毎週のように会いに来てくれた。試合前は新品の靴下を用意し、昨秋の東北大会後、痛めていた右ひじを手術した時もいつも励まし、支えてくれた。

 「好きなことをやらせてくれた。試合は負けてしまったけど、今日のプレーで少しは恩返しができたかな」。そう話し、誓った。「夏に絶対帰ってきて、今度は勝利のプレゼントをしたい」(酒本友紀子)