(19日、第96回選抜高校野球大会1回戦 阿南光11―4豊川) 2人の対決は、試合前から始まっていた。 昨秋の公式戦で出場選手最多の6本塁打を放った強打者、豊川(愛知)のモイセエフ・ニキータ。 最速146キロを誇る本格派右腕、阿南光(徳島…

 (19日、第96回選抜高校野球大会1回戦 阿南光11―4豊川)

 2人の対決は、試合前から始まっていた。

 昨秋の公式戦で出場選手最多の6本塁打を放った強打者、豊川(愛知)のモイセエフ・ニキータ。

 最速146キロを誇る本格派右腕、阿南光(徳島)の吉岡暖(はる)。

 大会屈指の注目選手同士、事前に互いの映像を見て、配球に思考を巡らせていたという。

 モイセエフは相手のエース右腕について「まっすぐのキレもよく変化球もいい。追い込まれる前に捉える」と考えていた。吉岡はモイセエフを抑えるために、「投げミスがないように、低めに低めに」と臨んだ。

 策がはまったのは、阿南光のバッテリーだ。

 一回の第1打席。吉岡は持ち味の直球で探りを入れ、最後は落差の大きいフォークで見逃し三振に仕留めた。次の打席は一転し、90キロ台のカーブを3球連続で投じて意表を突き、フォークで空振り三振に。

 「とにかく全打席で配球を変えた。狙っていないであろう、スライダーとかカットボールを投げた」と吉岡。第3打席まで無安打と、手玉にとった。

 ただ、モイセエフもやられたままでは終わらない。八回1死一塁で迎えた4打席目は、3球目の浮いた変化球を見逃さなかった。鋭いスイングで、“飛ばない”新基準のバットと思えないような豪快な一発を右翼ポール際に放り込んだ。

 「狙い球は絞らず、全部の球に対応して後ろにつなごうと思った」。シンプルな思考に切り替え、体の反応に任せた会心の当たりだった。

 打たれた吉岡は「甘く浮いたフォークを打たれた。チームのみんなとも『あいつ、スイング速すぎやろ。スイングが見えん』と言っていた」と唇をかんだ。九回は再び空振り三振に切って「借りは返せたのかな」。

 今大会第1号を放ったモイセエフの表情は晴れなかった。5打数1安打に終わり、「全然結果が出なかった。うれしいより、悔しい気持ちが大きい」。一瞬でも、確かな輝きを見せた17歳は「まだまだ足りないことが多い。もう1段階レベルアップして、この甲子園に戻ってきたい」と絞り出し、球場を後にした。(室田賢)

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 ○高橋徳監督(阿) 「先頭打者の福島がチームに勢いをつけてくれて、続く打者が気楽にいけた。打線の調子はまだ最大限ではないと僕は思う」

 ●長谷川裕記監督(豊) 「最後まで諦めない気持ちがあったことが良かった。(モイセエフは)本塁打に満足せず、レベルアップしてほしい」