レスター・シティの岡崎慎司の言葉を聞き、思わず「なるほど」と感心してしまった。 昨季の岡崎は45〜60分という早い時間帯での途中交代が圧倒的に多く、チーム内で絶対的な地位を築けなかった。理由は、レスターで編み出した自身のプレースタイル…

 レスター・シティの岡崎慎司の言葉を聞き、思わず「なるほど」と感心してしまった。

 昨季の岡崎は45〜60分という早い時間帯での途中交代が圧倒的に多く、チーム内で絶対的な地位を築けなかった。理由は、レスターで編み出した自身のプレースタイルにあった。



アーセナルとの開幕戦でさっそく今季初ゴールを決めた岡崎慎司

「速さ」や「高さ」といった個の力を持たないことから、ハードワークや献身性、運動量の多さを自身の武器とした。クラウディオ・ラニエリ前監督とクレイグ・シェイクスピア監督はそんな岡崎を高く評価し、レギュラーとして起用するようになった。

 ところが、この戦略が次第に足を引っ張るようになる。先発で起用されても、チームパフォーマンスが振るわないと真っ先に交代を命じられるようになったのだ。

 もちろん、プレッシング時における敵の追い込み方や、攻守両面でチームにスイッチを入れるエネルギッシュな動きの質は高い。だが、FWであってもゴールのほしい展開になると、あっさり交代を命じられてしまう。厳しい言い方をすれば、「汗かき役」のポジションに置かれていた。

 こうした状況に岡崎も頭を悩ませた。昨季終盤には「”レスターの岡崎”のイメージがすでに決まってしまっている。今のような状況が2年も続いたら、なかなかその印象は拭えない」(岡崎)。大きな壁にぶち当たり、本人も苛立ちを募らせていた。

 そこで、オフの間に考えた。導き出した答えは「逆転の発想」から生まれた。

「(今季も)間違いなく60分で代えられてしまう。だから、まず先発を掴んで、その60分間で(勝負を)決める。今季はとにかく走り切ろうかなと。守備だけでなく、前に比重をかけて走ろうと思っています。自分がこの2年間で築いたものはある。あとはそこにプラスアルファを乗っけていくだけです。チームの出来に左右されるかもしれないが、走り切るというテーマでやる。

 今季は裏を狙おうと思っています。味方は『(中盤とFWジェイミー・バーディーの)間でパスを受けてくれ』っていうんですけど、練習から裏に抜ける動きをトライしていて。自分はバーディーとは違う方向に抜けてみようかなって。そういうことに今、チャレンジしている。もっとゴールに向かっていこうと思っている。

 吹っ切れました。自分がやってきたことが、今の立ち位置につながっている。だから、交代させられて怒るというのもおかしいと。ただ、シーズン中はなかなかそういうふうに割り切れないので。(出場時間のなかで)必ずチャンスはある。そのときにいかに全力を出せるか。(最初から出番は)60分と思って、フラフラになるまでやりたい。今シーズンはその60分に勝負をかけます」

 献身的な守備をベースに、ゴールも積極的に狙っていく姿勢は、8月11日に行なわれたアーセナルとの開幕戦でも随所に見えた。

 自陣のペナルティエリア近くまで守備に走ったかと思えば、チャンス時はラストパスを引き出そうと敵陣のペナルティエリアまで突っ走る。攻守の切り替えの速い試合展開のなかで、日本代表FWは90分という枠組みを気にすることなく、精力的にアップダウンを繰り返した。

 岡崎の言う「ゴールに向かっていく」動きで、チャンスも呼び込んだ。5分にはDFクリスティアン・フックスのクロスに合わせようとゴール前のニアサイドに突進。34分にもペナルティエリア内に入り込んで、フックスのクロスからヘディングシュートを放った。守備で貢献するだけでなく、攻撃面でも怖さを放ち続けた。

 こうしたアグレッシブな姿勢が実を結んだのが、5分のゴールであった。味方のヘッドの折り返しに、岡崎はするりとゴール前のニアサイドに侵入。身長が約10cm高いMFグラニト・ジャカに空中戦で競り勝ち、頭でゴールにねじ込んだ。背番号20のゴール嗅覚とポジショニングのよさが大いに発揮された得点だった。

「力強くゴール前に入っていけるプレーが出せていた。今までとはちょっと違う形でできていたんじゃないかなと思う。自分の狙いどおりで、練習からゴールが獲れていた。ゴールが続くようにしたい。やっぱり獲り続けることで、味方の信頼をグッと引き寄せられると思うので。信頼を勝ち取るためには、シーズンふたケタ(得点)を獲るくらいの勢いがほしい」

 昨季までとの決定的な違いは、60分前後で交代を命じられる采配を真正面から受け入れ、そのなかで「自分が何をすべきか、何をやれるか」という答えを導き出したことにある。

 この打開策が、ペース配分を深く考えずに攻守両面で精力的に動き回るランや、あきらめることなくゴール前へのトライを続けるフリーランだった。60分前後で交代させられるのなら、采配に不平不満を持つことなく、60分のなかで自分のすべてを出し切る。そう割り切ったことで、岡崎の危険度は増した。開幕戦のゴールは、この延長線上にあったと言えよう。

 守備でも効いていた岡崎が72分に退いた後、チームは2ゴールを被弾して3−4の逆転負けを喫した。レスターとしては痛い黒星スタートとなったが、岡崎としては導き出した今後の方向性が間違っていないことを証明できた、意義のある一戦だった。