(18日、第96回選抜高校野球大会1回戦 石川・星稜4―2和歌山・田辺) 優勝候補を苦しめたのは、取り戻した持ち味の直球だった。 「同じ高校生なので(神宮王者という)意識はしなかった」と田辺(和歌山)の右腕、寺西邦右(ほうすけ)は言う。 …

 (18日、第96回選抜高校野球大会1回戦 石川・星稜4―2和歌山・田辺)

 優勝候補を苦しめたのは、取り戻した持ち味の直球だった。

 「同じ高校生なので(神宮王者という)意識はしなかった」と田辺(和歌山)の右腕、寺西邦右(ほうすけ)は言う。

 21世紀枠で76年ぶりに出場したチームのエースが、昨秋の明治神宮大会を制した星稜(石川)を相手に、堂々たる投球を見せた。

 インステップ気味の独特な投球フォームから放たれる130キロ台中盤の直球。これが、打者をたびたび詰まらせた。

 八回まで2失点で2―2。終盤まで小差でくらいつくのは「想定通り」。その展開を生み出した投球フォームと直球は、実は、一度消えかけた。

 昨年春ごろのことだ。

 寺西は田中格監督(51)と一緒に自身の投球動画を見た。

 インステップは体への負担が大きいフォームとされる。監督から、ステップ足を真っすぐ踏み出すように助言された。

 だが、寺西にとっては、それでは「良い球がいかない気がした」。監督に直訴し、インステップ気味の投球フォームに戻した。

 やはり、この方がしっくりきた。

 昨秋、寺西は7試合に先発し、6完投。52年ぶりの近畿大会出場を果たし、76年ぶり出場の原動力となった。

■「今の時代に合っている」選考委員会で評価

 エースと監督のやり取り、そこから生まれた躍進こそ、田辺が21世紀枠で選ばれた理由でもある。

 選抜選考委員会で、田中監督の「カウンセリング」が「今の時代に合っている」と評価されたのだ。

 数年前、監督は不登校の生徒などをカウンセラーと一緒に話を聞く「教育相談」を3年間担当した。

 「会話のやり方とか、野球部でも生かせるのではないか」。選手と定期的に面談をするなど、会話を大切にするようになった。

 「最近は部員数も少ない。それなら、一人ひとりを丁寧に見てあげられる」と田中監督。面談では選手が希望する守備位置を聞いたり、強化してほしいところを言ったりする。

 普段からもブルペンで「ええボール放るな」「ナイスボールやろ」と声をかけたり、ふとした時に選手に「悩んでることはないか」と問いかける。

 主将の山本結翔(ゆいと)は「普通なら言いにくいことも、言いやすい。監督が僕らのことをわかってくれる」。

 会話が一方通行にならないから、互いの意見をぶつけられる。寺西が投球フォームを戻せたのも、田辺では自然なことだ。

 エースは九回に勝ち越し打を浴びたが、内角直球で詰まらせた打球が右前へ飛んだもの。最後まで、力負けはしなかった。

 田中監督は「子どもたちは強豪相手に臆することなく、のびのびとやっていた。でもこれで満足はしてほしくない。夏へ、ワンランクもツーランクも上げていきたい」。

 手応えをつかんだ春も反省材料にし、対話の日々がまた始まる。(大坂尚子)