【和歌山】選抜大会に出場する耐久は、創部120年目にして春夏通して初めて甲子園の土を踏む。チームが大切にしてきたのは「課題練習」の時間。選手一人一人が課題と向き合い、能動的に取り組んできた練習の成果を見せる舞台になる。 「良くも悪くも自分…

 【和歌山】選抜大会に出場する耐久は、創部120年目にして春夏通して初めて甲子園の土を踏む。チームが大切にしてきたのは「課題練習」の時間。選手一人一人が課題と向き合い、能動的に取り組んできた練習の成果を見せる舞台になる。

 「良くも悪くも自分を持っている。そして力を抜かない。だから、幅を持たせて自由に練習させている」。井原正善監督はいまのチームについてこう話す。

 耐久のグラウンドは、右翼側にサッカー部、左翼側に軟式野球部が同居するため、内野分の広さしか取れないことも多い。そんな環境で効率的に練習するために、体育館でバドミントンのシャトルを使った打撃練習をする選手もいる。

 それぞれの選手が考えて行動するからこそ、意見がぶつかることもあった。選手たちの間の投票で主将に選ばれた赤山侑斗選手(3年)は「昨年は本当に苦労の年だった」と振り返る。

 赤山主将は、チームを一つにするために全員でウォーミングアップをしたいと考えていた。一方、1年生からレギュラーの沢剣太郎選手(同)は「個人でやる方が効率的」と言った。

 どちらがチームのためになるのか。

 なかなか結論が出ない。赤山主将は選手たちに意見を聞いて回り、対話を重ねた。そのなかで赤山主将は、自分の考えを強く打ち出すだけではいけないことに気づく。ウォーミングアップは全員ですることになったが、そうやって考え方一つ一つを仲間とすりあわせていった。

 自立しようとする選手たちに井原監督は手応えを感じていた。エースの冷水(しみず)孝輔投手(同)ら昨夏のレギュラー7人が残っていたことも大きかった。

 試合では、監督自身も考え方を変えた。いまのチームになって迎えた昨秋の新人戦は、準々決勝で日高に0―1で敗れた。犠打で得点圏に走者を置いて適時打を待つ――。セオリー通りの戦略をとったが、チャンスであと1本が出なかった。もっと積極的な采配の方が、自分で考えて行動できる選手たちは力を発揮できるのかもしれない、と井原監督は感じた。

 続く県大会からは、盗塁をしかけたり、これまで犠打をしてきた場面で打たせたりした。監督の意図に選手は結果で応えた。日高に6―0で勝ち、勢いに乗って県大会初優勝を飾った。

 その活躍にOBたちも目を細めた。「選手を信じろ。『よそいき』の試合をするなよ」。40年ぶりの近畿大会出場が決まり、前回出場したときの監督だった原政治さん(72)は井原監督にエールを送った。

 近畿大会の結果は、昨秋の新チーム結成当初の目標「近畿大会での1勝」を上回る4強入りだった。

 近畿大会後も19人の選手はそれぞれの課題克服に取り組んでいる。

 選抜大会目前の15日、JR湯浅駅近くの広場で壮行会が開かれた。初の大舞台に挑む選手たちを、広川、湯浅の両町の住民ら約250人が激励した。目標は「初勝利、そして8強入り」だ。(下地達也)