「(相手投手の)球種を頭に入れて、何も考えずにバットが出せた」。星稜(石川)の主将、芦硲(あしさこ)晃太(3年)は、各地区の王者が集まる明治神宮大会を制した昨秋をそう振り返る。 3番中堅手。全4試合で16打数7安打、1本塁打で9打点。作新…

 「(相手投手の)球種を頭に入れて、何も考えずにバットが出せた」。星稜(石川)の主将、芦硲(あしさこ)晃太(3年)は、各地区の王者が集まる明治神宮大会を制した昨秋をそう振り返る。

 3番中堅手。全4試合で16打数7安打、1本塁打で9打点。作新学院(栃木)との決勝では同点の八回に決勝の2点打を放った。

 「一度乗ったら止まらない」とは、山下智将監督(42)からの評価だ。

 打撃の基礎を教わったのは、父の太輔さん。天理(奈良)の二塁手として1997年春の選抜大会を制した。大阪・河内長野の実家にいた中学生までは、自宅裏で打撃練習に付き合ってもらった。

 「打撃はタイミングが一番大事」。不調に陥ったときは、父から繰り返し言われたその言葉を思い出す。

 昨夏、甲子園で放った大飛球が忘れられない。創成館(長崎)と対戦した2回戦、七回に代打で打席に立った。思い切り引っ張った会心の当たりは、右翼ポールのわずか右にそれてファウルに。結局、空振り三振に終わり、試合も負けた。

 「自分にホームランはまだ早かった。野球の神様から『甲子園は甘くないぞ』と言われた気がした」

 その日の夜、山下監督に主将就任を直訴した。この冬は体重を9キロ増やし、スイングは力強さを増した。高校生になってからは、父から助言をもらうことも減ったが、正月に帰省したときは一言、「楽しめ」と言われた。

 チームは神宮王者というだけでなく、能登半島地震の被災地の代表としても注目を浴びる。「プレッシャーにのまれることなく、野球ができることに感謝してプレーしたい」。そして、ひそかな夢も明かした。

 「父は甲子園でホームランを打っていない。自分が打って父を超えたい」(大宮慎次朗)