田辺は、76年ぶり3回目の選抜大会に21世紀枠で挑む。昨秋は県大会で準優勝し、近畿大会出場は52年ぶりという活躍だったが、そのチームの姿を、田中格監督はいまの上級生が1年生だったころから思い描いていた。 2022年夏の全国選手権和歌山大会…

 田辺は、76年ぶり3回目の選抜大会に21世紀枠で挑む。昨秋は県大会で準優勝し、近畿大会出場は52年ぶりという活躍だったが、そのチームの姿を、田中格監督はいまの上級生が1年生だったころから思い描いていた。

 2022年夏の全国選手権和歌山大会。田辺の初戦の相手は智弁和歌山だった。先発を任されたのは当時1年生だった現チームのエース寺西邦右(ほうすけ)投手(3年)。

 「マウンドに上がると闘志が燃える。精神面の強さもあり、先発に起用した」と田中監督は振り返る。

 結果は、2回を投げて無失点、3奪三振と期待に応えた。寺西投手は「自分の投球で強力打線を抑えることができるんだ」と感じることができたという。

 その経験が、寺西投手個人としてもチームにとっても大きな財産になる。

 寺西投手らが上級生になって迎えた昨秋の県大会では、昨夏の和歌山大会で智弁和歌山を破った高野山に勝利。チームは勢いづいた。

 続く市和歌山戦ではチームで14安打を記録した。八回、この試合から4番打者を任された山本陣世選手(同)が2点本塁打を放ってコールド勝ちを収めた。

 そして準決勝の智弁和歌山戦でも山本陣選手が七回に満塁本塁打を放って逆転勝ちした。田中監督は「公式戦で智弁和歌山に勝ったのはおそらく初めて。こんなに打ってくれるとは」と喜んだ。

 そしてこの試合、寺西投手はというと、智弁和歌山相手に2失点での完投勝利をあげていた。

 順風満帆にみえたチームだったが、暗いムードが漂ったときがある。

 選抜大会の選考は秋の公式戦成績が参考記録になる。大事な近畿大会1回戦でチームは、京都国際と延長タイブレークまで競ったが敗れた。「あと2イニングを抑えていたら」「甲子園にはいけないのかもしれない」。選手たちは肩を落とした。

 そんなチームに田中監督は言った。「まだ21世紀枠がある。出場に備えて練習しよう」

 選手たちはその言葉を信じて、練習に励んだ。

 寺西投手は「甲子園で長いイニングを投げても疲れないようになりたい」と肩や腰をケアしながら、スクワットなどで体をつくった。

 山本陣選手は、選抜大会から使用する低反発バットでも強い打球を飛ばすために、毎日、納得がいくまで素振りを繰り返した。

 そして今年1月26日、選抜出場校のなかに田辺の名前があがった。一度は遠のいた夢が実現した。

 昨秋の近畿大会で負けたあと、山本結翔主将(同)は田中監督から「なぜ、市和歌山と智弁和歌山に勝てたのか」と問いかけられていた。そのときすぐに答えられなかったが、いまは分かるという。

 「投打の軸がしっかりしていたから」。そして、チーム18人の少人数だからこその「団結力」が「他のチームに負けなかったから」。

 そのチーム力を見せる大舞台はもうすぐだ。(下地達也)