【神奈川】「自分の挑戦で、迷っている人の背中をひと押しできる人間になりたい」。早稲田大学3年の吉田篤郎さん(21)は、そんな思いでこの4月、就職活動の重要な時期に日本を離れ、世界有数の過酷なレースと言われるサハラマラソンに挑戦する。実家は…

 【神奈川】「自分の挑戦で、迷っている人の背中をひと押しできる人間になりたい」。早稲田大学3年の吉田篤郎さん(21)は、そんな思いでこの4月、就職活動の重要な時期に日本を離れ、世界有数の過酷なレースと言われるサハラマラソンに挑戦する。実家は鎌倉で、小学校時代に過ごした。コロナで様々な活動が制限された大学時代を思い返しながら、トレーニングに励んでいる。

 東京で生まれた吉田さんは、父の転勤のため幼稚園は米国、小学校時代は新潟と鎌倉で過ごした。藤沢市にある私立の小学校へは江ノ電で通っていた。車窓からの眺めやゆっくり走る電車が大好きだった。今も実家は鎌倉市内にある。

 小学校2年のとき、母智恵さん(47)がステージ3の大腸がんと診断された。智恵さんは闘病と家事育児の両立に苦心しながら、息子がヤングケアラーになる可能性も考えたという。その結果、中学・高校は佐賀県にある全寮制の私立一貫校に進学した。

 だが当初、寮生活に慣れず友達もできず、「帰りたい」と智恵さんに泣きついたこともあったという。智恵さんは吉田さんを1週間家に呼び戻した。必要以上に声をかけることはしなかった。休むことでリフレッシュした吉田さんは学校に戻ることができ、やがて友達もできて早稲田大政治経済学部に進学した。

 大学では、様々な大学の学生が入居する男子寮「和敬塾」で生活している。出場を考えたのは、就職活動の一環として、かつて寮で暮らしていた先輩に会い、サハラマラソンに参加した話を聞いたのがきっかけだった。

 考えてみたら、高校3年のときにコロナの感染が拡大、学校行事はなくなり、卒業式もできなかった。大学入学後も授業はオンラインがメインで、大学生らしい体験や活動があまりできていなかった。

 サハラマラソンは砂漠を約250キロ、1週間で走るレースで、今回で第38回。昼は50度、夜は0度ほどになることもあり、衣食住に必要な荷物はすべて自分で背負って参加する。昨年の大会は1085人が参加し、完走は764人(完走率70・4%)。うち日本人の参加が31人で、24人が完走した(同77・4%)。

 サハラマラソンが行われる4月は、新4年生にとっては就職活動の正念場。しかもフルマラソンはおろかハーフすら走ったこともない。寮生で仲のいい早稲田大文化構想学部3年の滝本陸人さん(21)に打ち明けた。「やるんだったら今しかないぞ」と背中を押された。

 昨年12月に出場を決意。参加に必要な渡航費などを含めた約100万円の費用は、貯金とアルバイト、元寮生からの寄付などでなんとか調達できた。

 滝本さんは、逆に吉田さんに大いに刺激を受けたという。「就職活動には重要な時期だが、やりたいことを優先して突っ走れるのは正直うらやましい。結果はどうあれ、得られるものは必ずあるはず」

 がんは完治した智恵さんは「小さいころから好奇心旺盛で行動力があり、感性が豊か。応援する気持ちと親として心配する気持ちがあるが、自分が決めたこと。あらゆる事態を想定して準備万端整えて臨んで欲しい」と話す。

 吉田さんは今、毎日寮の周りを走ったり、荷物と同程度の12キロのダンベルを積んだリュックを背負って走ったりしてトレーニングに励んでいる。砂漠を想定して、週末には実家がある鎌倉の海岸で走り込む。

 「自分がチャレンジすることで、周りの人たちを元気づけることができたら。完走の自信はあります」(芳垣文子)