ヤクルトの「3人目の外野手争い」が熾烈だ。髙津臣吾監督は、一軍キャンプが始まってまもなく「ふたりが健康であれば、スタメンで試合に出ているでしょう」と、塩見泰隆とドミンゴ・サンタナの外野手ふたりの固定を明言した。 残るひと枠については、「今…

 ヤクルトの「3人目の外野手争い」が熾烈だ。髙津臣吾監督は、一軍キャンプが始まってまもなく「ふたりが健康であれば、スタメンで試合に出ているでしょう」と、塩見泰隆とドミンゴ・サンタナの外野手ふたりの固定を明言した。

 残るひと枠については、「今はあえて決めていないと言ったほうがいいですね」と話した。

「誰が1番目、誰が2番目という目では見ていません。本当に単純に、点をとれる人、得点に絡める人、失点を防げる人、チームに影響のある人......そういうことを見ながら選んでいきたいと思っています」

 はたして、最後のひと枠を勝ちとる選手は誰なのか。ヤクルト一軍の浦添キャンプ(沖縄)、二軍の西都キャンプ(宮崎)で、外野手登録されている選手たちを追った。


ヤクルトに新加入した過去盗塁王4回の西川遥輝

 photo by Koike Yoshihiro

【スピードスターは新天地で復活なるか】

 昨年オフ、楽天を戦力外となった西川遥輝の加入は、ヤクルト外野陣に刺激をもたらした。

 キャンプイン前日の1月31日、西川は一番早く浦添のグラウンドに姿を見せ、外野ポール間を黙々と走り始めた。その後は、キャッチボールやバッティングで汗を流した。初めて訪れる球場にもかかわらず、スムーズに練習場所を見つける姿が印象に残った。

「レギュラー陣の青木(宣親)さんをはじめ、(山田)哲人やムネ(村上宗隆)、塩見とかが、そういう雰囲気づくりをしてくれるので入りやすかったですね。(試合に出たいハングリーさは)もちろんあります。去年と同じ過ちではないですが、あの経験はしたくない。初めからしっかりと、そして1年間を通して結果を残すことを大前提でやりたいです」

 キャンプに入っても、ランチ休憩後の練習が始まる際、誰よりも早く準備する姿はすっかり見慣れた光景となった。

「特別何かをしているイメージはないですよ。バッティングの順番がトップだからというだけで、何もしていない時間が嫌いなだけなんです。体を動かしていないと固まるので、ただそれだけです」

 これまで4度の盗塁王に輝いた西川には、「得点に絡める人」の期待が高まる。なにより、2018年から出塁率が打率を1割以上も上回っているのが魅力だ。昨年こそ35試合の出場で打率.181、出塁率.286と、過去の成績を比較すれば振るわなかったが、二軍では63試合に出場して打率.369、出塁率.493、5本塁打、16二塁打、3三塁打、8盗塁と、実力を見せつけていた。

「まずは監督がどういう野球をしたいのかを、早く感じとらないといけない。とにかく打って得点したいと思っているのか、四球でもいいから塁に出て球数を投げさせるという野球を求めているのか......。そのなかで、求められることをしっかりやらないといけない。チームにはムネだったり哲人だったり、ポイントゲッターはしっかりいるので、その前を担えたらと思います。でも、点ももたらしたいですし、失点も防ぎたい。野球選手である以上、それは全部ですよ」

 西川にヤクルト外野陣の印象について聞いてみた。

「外野陣というよりも......青木さんの存在が大きいですよね。チームに入ってそれを本当に感じました」

【レギュラーを目指す3人の若手たち】

 キャンプ期間中の居残り練習では、並木秀尊、丸山和郁、濱田太貴の3人が、同じ空間でバットを振り込む光景を繰り返し見ることになった。

 並木はスピード、丸山は肩、濱田は長打力を武器に、レギュラー獲りに励んでいるが、並木は「最終的には打てないと試合に出られないので」と、バットを振り続けた。3人は昨年秋の松山キャンプ(愛媛)から、自分の打撃の形を見つけるべく鍛錬を重ね、2月はまた新しいフォームに取り組んでいた。

 濱田は「長所を伸ばす方向でやっています」と、浦添での練習試合ではチーム第1号となるホームランを放った。

「でも短所も克服というか、守備もまだまだですし、打撃も力まずに飛ばせるようにしないと。コンタクト重視ではないですが、ミート力アップを目指しています。軸足をシンプルなところに置いて、タイミングを取りやすいように。秋から試行錯誤して、ようやく構えやすいところが固まってきた感じです」

 昨年、3人のなかでは最多の47試合に先発出場。フルシーズン一軍で過ごしたのは初めてのことだった。

「ケガをしなかったことが大きかったので、今年もそこは大事だと思っています。目指すところは、数字はあまり言うとあれなので、まだ考えてないです(笑)。ただ、50打点はクリアしたい。で、打率も残して、先発は出られるなら全部出たいです」

 並木は「出塁率やボールコンタクト率を上げて、打率2割7分から2割8分を目指したい」と、青木に助言をもらいながら、それを自分で考えて打撃に向き合っている。

「ボールの見方、打席での考え方、ファウルの打ち方などを練習しています。相手にとって、自分は四球で出したくない選手だと思うので、そこでの駆け引きを学んでいければと思っています」

 そう語る並木だが、打球速度は年々アップ。打撃練習では、フェンスオーバーの打球が明らかに増えた。

「強い打球が増えれば相手の守備位置も下がるでしょうし、そうなればスピードを生かせるんじゃないかと。去年と違ったところをアピールしながら、足や守備というところから信頼を積み上げていけたらと思います」

 丸山は「前の日にホテルで素振りしたことを、実際に打つことで確認したいですし、自分にはやることが多いので」と、休日でも球場に来てバットを振った。

「自分の悪いところであるバッティングを克服していければ、レギュラーに近づくと思うので、しっかり結果を出したいです。今は、松山キャンプや自主トレで取り組んできたことをミックスしてやっています。意識しているのは、自分の打つポイントをしっかりつかむこと。効率のいいスイングをすれば、打率は去年よりも上がるでしょうし、3割を目標にしています」

 丸山のシートノックでの外野からの返球は際立っている。アナリストの藤沢剛氏は丸山のキャッチボールを見て、「ピッチャーのボールですね」と感心した。

「送球する時の発射角度が地面と平行になっていて、ボールにスピンがかかっている。高校時代に投手をやっていたこともありますが、外野手は遠くに投げるのでそこはプラスになります」(藤沢氏)

 丸山は武器である肩について、「再現力を高くしたい」と言う。

「これまで失点を防ぐことで試合に使ってもらっていましたが、もっと正確性を上げてより信頼されるようにしたい。また、今年は点を取れる場面でも任されるようにしたいと思っています」

【9年目の中堅外野手と2年目の大砲候補】

 西都の二軍キャンプを訪れたのは2月中旬。山崎晃大朗は「西都スタートになりましたが、(ベテランの川端)慎吾さんが手を抜かずに一生懸命やっていますし、その姿は刺激になりました。自分もやらなければと、心は全然折れてないです(笑)」と前を向いた。

 外野陣の競争を勝ち抜くには何が必要かを山崎に聞くと、こんな答えが返ってきた。

「自分は正5角形のチャートで見た時に、飛び出したものがない分、走攻守のすべてでワンランク上を目指さないといけない。体も動けていますし、バットも振れています。去年は、若い選手が早いカウントから仕掛けていましたが、自分が打席に入った時『それでアウトになるわけにはいかない』と考えすぎました。

 その結果、追い込まれてから何とかバットに当てての内野安打が多かったのですが、やっぱり振ってこない選手は守っていてもイヤな感じがしません。今年は早いカウントからでも打ちにいって、甘い球をしっかりとらえて二塁打、三塁打が増えてくるといいなと。それに加えてバントだったり、しっかりボール球を見極めたり、相手が嫌がることを率先してやっていきたいですね」

 山崎も気がつけばプロ9年目。青木、西川のベテラン組と、若手選手の間に挟まれる立ち位置となった。

「目指すところは、開幕から一軍のスタメンに名を連ねて、1年間しっかりと戦って、日本一になるためのひとつのピースになることです」

 澤井廉はルーキーイヤーの昨年、二軍でホームラン王を獲得。大砲への期待は高まったが、昨年10月に宮崎でのフェニックスリーグで、ファウルフライを追って長岡秀樹と衝突。ともに救急車で運ばれるなど最悪の事態も頭をよぎったが、12月には打撃練習を再開。年が明けると軽いジョグも始め、西都キャンプでは強めのランニングをするまでに回復していた。

 キャンプは別メニューながら、キャッチボールや、マシン、コーチを相手にした打撃練習を消化。澤井は回復状況についてこう話す。

「まだ始められないのは、生きたボールでのノックやバッティングです。理想を言えば、キャンプが終わる頃には"野球"に参加したいのですが、現実的にはトレーナーさんたちと話し合って、焦らずにやっていこうと」

 澤井はケガで失った時間について、「落ち込みましたが、今までやってこなかったトレーニングもできました」と前向きに語る。

「胸椎の柔らかさとか、苦手だったところにフォーカスする時間になりました。復帰したあと、いい結果を残せる自信はすごくあります。あとはどれだけ下半身の状態を戻せるか、というところです。チームには西川選手も入ってきましたし、同級生のハマちゃん(濱田)も力をつけているという情報も入ってきています。その戦線に入っていきたい気持ちが強いです」

 3月の戸田球場。澤井はチームの打撃練習を利用して、打球への感覚を身につけるためライトの守備位置に立った。実戦に向けて、一つひとつ階段を上がっている。

【大ベテランの献身力】

 西都から浦添の一軍キャンプに戻ると、青木が「去年以上のパフォーマンスを出したいと思っています」と、いつものように朝からマシン相手に打ち込んでいた。NPBでは初めてとなるライトの守備にも就き、シートノックではダイビングキャッチも見せた。

「昔から外野ならどこでも守れる準備をしているので、景色はちょっと違うけど慣れの部分だけですね。42歳になってダイビングするとは思わなかったけど、若い人には負けないように気持ちを出しています」

 髙津監督が冒頭で述べていた「チームに影響のある人」というのは、青木のことを指していることは容易に想像できた。

「自分としては、プレーでも声がけでも、今はすべてにおいて自分のベストを与えたいと思っています」

 出場機会を求めるなかでの若手へのアドバイス。ふたつを両立させるのは難しいことかと聞くと、青木は「それはそれです」と厳しい表情で言った。

「そうやってひとつに絞ろうとするからおかしな感じになる。試合には出たいけど、アドバイスもします。それだけですよ」

 このほかにも、宮本丈、太田賢吾、増田珠、赤羽由紘、内山壮真といった野手たちが、出場機会を求め外野練習に余念がない。

 キャンプ打ち上げの日、髙津監督にあらためて外野陣の競争について質問した。

「簡単そうで、非常に難しい判断をこれから求められていくでしょうね。チームが勝つために、点を取るために、点を与えないために......この選手を使いたい、ここで使おうという判断を誤らないようにしないと、大ケガにつながる。本当に開幕まで、いろいろな選手を試しながらと考えています」

 誰が開幕一軍を果たし、誰が開幕スタメンをつかむのか。レベルの高い競争はチームの底上げにもつながっていくはずだ。