■2024春 担当記者の「ココを見て」(2)豊川 豊川(愛知)のモイセエフ・ニキータの魅力は、昨秋の公式戦で打率5割7分6厘を残した、その打力だけではない。 高校入学時は180センチ、66キロと細身。27人の同期部員の中でも、特段目立った技…

■2024春 担当記者の「ココを見て」(2)豊川

 豊川(愛知)のモイセエフ・ニキータの魅力は、昨秋の公式戦で打率5割7分6厘を残した、その打力だけではない。

 高校入学時は180センチ、66キロと細身。27人の同期部員の中でも、特段目立った技量はなかったという。それでも、当時15歳の少年は「将来はプロ野球選手になりたい」と言い張った。

 それを聞いた長谷川裕記監督(30)は「高校生にもなって何を言っているんだと思ったんですよ」。

 だが、本人は本気だった。「野球が好きだから。絶対にこれを仕事にしたいと思った」。豊川を選んだのも、設備が充実した環境で、「もっと野球がうまくなると思ったから」。

 打撃のミート力には自信があった。課題はパワー不足。体を大きくするために朝500グラム、夜900グラムの白米を平らげ、授業の合間や就寝前などプロテインを1日4、5回は飲んだ。

 冬場は筋力トレーニングで追い込み、2年足らずで16キロ増の82キロに。ベンチプレスで120キロを挙げられるまでになると、昨秋、ついに実力が開花した。冒頭の打率に加え、公式戦17試合で6本塁打、33打点と打ちまくった。

 両親はロシア出身で、4人兄弟の次男。父セルゲイさんは空手の東海王者だった。日本生まれのモイセエフも幼少期から空手をやっていたが、小学4年生からは野球一本に絞った。

 小さい頃は周囲と少し違う外見が「そんなに良いとは思わなかった」。ただ、明るい家族にも囲まれて、引っ込み思案になることはなかった。

 「父は何もわからない状態から、色々な野球の情報を僕に提供してくれた」。技術の参考になる本を買ってくれたり、動画を探してくれたり。仕事を終えて疲れていても打撃投手をしてくれた。

 母アンナさんは遠征にも駆けつけ、弟たちと一緒に声援を送ってくれた。

 今では「筋肉がつきやすい体は父と母のDNAのおかげ」「名前がカタカナで覚えてもらいやすい。注目もしてもらいやすいじゃないですか」。両親への感謝を口にする姿に、こちらも20分間ほどのインタビューで胸を打たれた。

 心に太い芯を持ち、「自分に誇りを持っている」という17歳には、自然と仲間が集まる。「うちはニキータのチームです」と長谷川監督。甲子園で大暴れして、全国にその名をとどろかせてほしい。(室田賢)

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 第96回選抜高校野球大会が18日に開幕します。担当記者が取材をする中で魅力を感じ、読者の皆様に「ココを見て!」と推す選手やチームを紹介します。