「フラストレーションは感じます。でも......」 F1第2戦サウジアラビアGP決勝を終えたばかりの角田裕毅は、苛立ちとも落胆とも言える表情で言った。 ハースのケビン・マグヌッセンによる抑え込みと、ニコ・ヒュルケンベルグへのアシストによる1…

「フラストレーションは感じます。でも......」

 F1第2戦サウジアラビアGP決勝を終えたばかりの角田裕毅は、苛立ちとも落胆とも言える表情で言った。

 ハースのケビン・マグヌッセンによる抑え込みと、ニコ・ヒュルケンベルグへのアシストによる10位入賞。マグヌッセンに抑え込まれてヒュルケンベルグに20秒の差を開けられ、その間にピットストップを完了されてしまった。レース序盤に中団トップの入賞圏内を走っていた角田とRBにしてみれば、ハースの戦略にまんまとやられたかたちだ。


角田裕毅にとって悔しい決勝レースとなった

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「フェアじゃないと思いますけど、ルール上は問題ないのでどうこう言うことはできませんし、彼の立場に立てばチームとしてポイント獲得することをサポートしたいというのもわかりますし、ポジションを守るためになんでもしてやるという気持ちもわかります。ケビンはチームのためにうまくやったと言えるんじゃないかと思います。F1はチームスポーツですから」

 抜けないセクター1でゆっくり走り、直線主体のセクター2とセクター3では全開で走って抜かれないようにする。直線番長マシンのハースだからこそできるドライビングで、マグヌッセンは巧みに後続を抑えた。このチームプレー自体は、角田が言うようにルールで禁止されているわけでもなく、合法的なものだ。

 ただし問題は、マグヌッセンが1周目の幅寄せで10秒加算ペナルティを受けていたということで、実質的にポジションを争う立場にないマグヌッセンがこうした戦略に出たことに疑問の声が上がった。しかし、それもルールで禁止されているわけではない。

 最大の問題は、マグヌッセンがコース外走行で抜いたということだろう。

 17周目のターン4で、本来ならオーバーテイクできないこのコーナーのインに強引に飛び込み、止まりきれないレイトブレーキングだからこそ角田の前に出ることができた。

【ハース・小松礼雄チーム代表の説明は?】

 ルール上は禁止されているこの行為に対して、10秒加算ペナルティが科された。これが角田と争っているドライバーならば取り返しのつかない痛手なのだから、ペナルティ回避のためにポジションを譲り返すところだ。

 しかしマグヌッセンは、すでに1周目の10秒加算ペナルティを持っていた。だからハースは角田に譲り返すのではなく、さらに10秒加算ペナルティを受けることを覚悟のうえで、角田を抑え込む戦略に切り替えた。4.5秒前にチームメイトのヒュルケンベルグがいて、ピットストップまでにこのギャップを20秒まで広げる必要があったからだ。


予選9番手から飛躍が期待されたのだが...

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 ハースの小松礼雄チーム代表はこう説明する。

「あの時点で我々は角田と10位争いをしていたわけで、もちろん本来ならポジションを戻してもう一度、オーバーテイクをトライし直すべきだったと思いますし、ウチのペースを考えればそれも可能だったと思います。だからポジションを戻したとしても、狙っていたのは10位であることに変わりはなかったんですけど、そうしていたらどういう結果になっていたかはわかりません」

 マグヌッセンを"捨て駒"にする戦略だが、ハースにとって最優先事項は「入賞」であり、そのためにはルールのなかで許されることはすべてやるという、F1では当たり前のことをやったまでだ。チーム代表が小松に代わって以来、ハースのなかでも徹底されてきた明確な目標というのが浸透しているからこそ、迷いなく提案されて実行に移された戦略だった。

「ケビンは20秒加算ペナルティを持っていたので、どうやっても入賞のチャンスはありませんでした。だから、ウチにとって唯一の入賞のチャンスはニコが10位に入ることで、彼が後方に十分なギャップを作ることができれば入賞できるということを計算して、それが唯一のチャンスだと考えたわけです。

 そこからはケビンがとてもすばらしい仕事をしてくれました。チームからは1分36秒前後で走ってくれと伝えて、実際に彼は36秒2、36秒2、36秒2というペースを刻んで、一度はメインストレートで角田に抜かれて、僕も『まぁしょうがないか』と思ったんですけど、ターン1のアウト側からまた抜き返してくれて。ホントにいい仕事をしてくれたと思います」

【ハースを非難することは簡単。しかし角田は...】

 17周目のマグヌッセンの強引なオーバーテイク(とペナルティ)がきっかけで発動したこの捨て身の戦略は、マグヌッセンの巧みなブロックとハース自身の速さもあって成功した。

 特に29周目のターン1で一度は前に出かけた角田に対し、失うものがないマグヌッセンは強引にアウトから被せてターン2のインに飛び込み、角田を押し出してポジションを守り抜いた。本来なら1台分のスペースを残さないこのドライビングもルール違反だが、さらに10秒加算を受けたとしてもブロックを続けられたという意味では同じで、マグヌッセンは「無敵の人」であった。

「あれはかなり危険なドライビングでしたし、実際にターン2でぶつかりそうになっていました。フェアだとは言いません。でも、彼の立場になれば理解はできます」(角田)

 結局のところ、ハースはルールのなかで戦い、RBに勝った。

 問題があるとすれば、ハースではなく、ルールのほうだ。今後のフェアなレース維持のために、ルールの穴を塞ぐ必要はあるだろう。しかし、今日この時点でのルールで行なわれたレースのなかでは、ルールどおりに戦い、ルールに沿ってペナルティを受け、それでも入賞を果たしたハースが勝者なのだ。

 逆に、角田はペースが振るわず、その後マグヌッセンとのバトルの隙を突かれてエステバン・オコン(アルピーヌ)やアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)にも抜かれて、14位でフィニッシュするのがやっとだった(レース後にアンセーフリリースに対するペナルティで15位に降格)。実際、ヒュルケンベルグがピットインを済ませて自由に走れるようになったマグヌッセンは、大幅に角田を上回るペースで周回する速さを持っていた。

 ハースを非難することは簡単だが、角田は自分たち自身に足りなかった部分に目を向けている。入賞を果たせなかった本質的な原因はそこだということがわかっているからだ。

「実際には僕が彼を行かせてしまったことが発端です。それは僕のミスです。(エステバン・)オコンやアレックス(・アルボン)に抜かれたのも、僕が100パーセントの仕事をしていれば防げたことですし、そうしていれば前のクルマ(マグヌッセン)を抜き返すこともできたと思います。僕自身、改善しなければいけないところがたくさんあったと思います」

【角田は自責思考をしっかりと持ち続けていた】

 他責思考では成長はできない。どんな状況であろうと、自分たちに足りないところを見詰め直すことでしか成長はない。

 今年の角田は、そのことがよくわかっている。そして、うまくいかなかったことを誰かのせいにしたくなってしまう状況でも、自分を見失うことなく自責思考をしっかりと持ち続けていた。

「今回の悔しさを胸に、予選の結果などポジティブな部分はポジティブに受け止めて、反省しなくちゃいけないところは反省して、しっかりと準備していきたいと思います。ポイントは本当に獲りたいんで」

 5チーム10台が入賞圏を占める現在のF1において、極めて狭き門であるポイント獲得の糸口を、次こそは掴み獲りたい。

 そのためにできるのは、自分たちの実力を少しでも高め、今できる最大限である「中団グループ最上位」の位置をしっかりと掴み獲っておくことだ。

 次のオーストラリアGPでは、それが果たされることを願いたい。