■2024春 担当記者の「ココを見て」(1)青森山田 気温5度そこそこ。3月2日、今年最初の練習試合だというのに、青森山田の関浩一郎は一回から全開だった。 霞ケ浦(茨城)を相手に自己最速の147キロ。3回1失点で4三振を奪った。春の甲子園へ…

■2024春 担当記者の「ココを見て」(1)青森山田

 気温5度そこそこ。3月2日、今年最初の練習試合だというのに、青森山田の関浩一郎は一回から全開だった。

 霞ケ浦(茨城)を相手に自己最速の147キロ。3回1失点で4三振を奪った。春の甲子園へ向け、「できるなら自分が全試合完封して優勝したい」と野心を持つ。

 バックネット裏で、関の球速を測りながら「やばい」と闘志を燃やす投手がいた。もう一人の3年生右腕、桜田朔(さく)だ。「すごい球を投げていた。負けていられない」

 昨秋の東北王者。雪国の右腕2人の関係性が、とにかく熱い。

 関は制球力と切れの良い変化球を兼ね備える。秋は背番号1。東北大会準決勝で一関学院(岩手)を完封し、12三振を奪った。

 翌日の決勝、今度は桜田が快投だ。八戸学院光星(青森)をノーヒットノーラン。優勝にも関は素直に喜べなかった。「もちろんうれしかったけど、悔しかった。目の前ですごい記録を達成されたので」

 関にとって桜田は、「チームの勝ち負け以上に負けたくない」ライバルだ。身長はともに180センチを超え、140キロ台のホップするような直球を操る。

 中学時代は青森県内の別々のチームに所属。全国大会と縁がなかった関に対し、桜田は「青森山田リトルシニア」のエースとして全国制覇。入学直後から「直球の質では朔にかなわない。総合力で勝つ」と成長の糧にしてきた。

 ただ桜田の快投もまた、関によって引き出されたものだ。桜田は言う。「準決勝の関の投球を見て、負けたくないと思った」

 この冬は互いにエース争いへの「危機感」を持って過ごしてきた。

 たとえば食堂での夕食。関は桜田がご飯をおかわりするのを見たら、「自分も」ともう一杯食べる。桜田は全体練習後、関が室内練習場にいるのを見つけると、そっと隠れる。帰った頃を見計らい、筋力トレーニングを始める。

 グラウンドを離れれば、仲の良いクラスメート。練習が休みの日は一緒に焼き肉に行くこともある。「なんでか、野球の話はしないですね」と桜田。

 高校野球でも継投策が当たり前になり、取材をしていても「投手陣みんなで勝てればいい」という選手が多くなった。そんな中、マウンドを譲ってたまるかという「エゴ」をぶつけ合う高校生は、久々に見た。

 目指すは同校初の選抜勝利、そして頂点。2人の競争が激化するほど、その瞬間は近づく。(大宮慎次朗)

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 第96回選抜高校野球大会が18日に開幕します。担当記者が取材をする中で魅力を感じ、読者の皆様に「ココを見て!」と推す選手やチームを紹介します。