久保建英はパリ・サンジェルマンとの大一番に臨むも敗退し、キャリア初のチャンピオンズリーグ(CL)はラウンド16で幕を閉じた。今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、チームと選…

久保建英はパリ・サンジェルマンとの大一番に臨むも敗退し、キャリア初のチャンピオンズリーグ(CL)はラウンド16で幕を閉じた。今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、チームと選手たちの今後について解説してもらった。

【一匹狼のタケ・クボ】

 キリアン・エムバペでもない限り、ひとりでチームをチャンピオンズリーグ(CL)の決勝トーナメントで勝たせるのは難しい。ほとんど不可能と言っていいだろう。

 これはパリ・サンジェルマンとのCL初戦の久保建英を見て感じたことだ。



残るはリーグとなったレアル・ソシエダ。不振が続くと久保建英をはじめ主力の引き抜きが今夏起こるかもしれない photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 第1戦ではデビューしたばかりのルーカス・ベラウドが久保のマーカーを務め、スポットライトはすべて日本代表のスター選手に当てられた。このパルク・デ・プランスでの前半、ラ・レアルはいいプレーを見せていたが、久保はチームメイトとの連携がうまくいかず、個人プレーに終始。悪くはなかったが、決定的な役割も果たせなかった。

 第2戦はシナリオが変わり、圧倒的劣勢の状況に陥ったラ・レアルでは、久保だけが顔をのぞかせ、チャンスを作り出せた。しかし、クロスを入れるもギリギリのところでベラウドにクリアされ、左足のロングシュートはゴール左上隅をわずかに外れ、スルーパスはミケル・オヤルサバルにうまく合わなかった。

 久保は、ラ・レアルの攻撃において"一匹狼"だったのだ。

 ラ・レアルの敗退には多くの原因がある。2試合を通じて45分以上、互角に渡り合えなかったというのが理由のひとつではあるが、最も明白なのは、パリ・サンジェルマンがはるかに優れたチームであり、欧州最高の大会に勝ち残るチームの多くを、エムバペがたったひとりで退けられるということだ。

 しかしフットボールにはそれを上回る複雑さがあるため、ラ・レアルの今のレベルを理解するには過去に遡る必要がある。なぜなら、もしこの対戦が昨年11月に行なわれていたら......結果が変わっていた可能性は十分にあったからだ。

【久保のベストパートナー不在】

 CLグループリーグにおいて、ラ・レアルのベストプレーヤーはアンデル・バレネチェアとブライス・メンデスだった。そしてチーム最大の武器は、キャプテンのミケル・オヤルサバルが指揮する、特にアノエタ(※レアレ・アレーナの正式名称)での前線からのハイプレス。さらに久保の違いを生み出す力も大きな武器となっていた。

 しかし、ベンフィカ戦でのハイパフォーマンス以降、ラ・レアルの指揮官、イマノル・アルグアシルは久保、バレネチェア、オヤルサバルのトリデンテ(三又の矛:3トップの意味)を一度も先発起用できていない。

 ブライス・メンデスは昨季、後半戦に入ると調子を落とし始めていたが、今季はそのタイミングがより早かった。オヤルサバルはパリ・サンジェルマンとの第1戦を負傷欠場し、第2戦もヒザに問題を抱えたまま全力でプレーした。

 ラ・レアルは今季最初の数カ月間、久保、ブライス・メンデス、そしてサイドを駆け上がるアマリ・トラオレの右サイドのトライアングルによって、多くの攻撃を生み出してきた。しかし、ブライス・メンデスが失速し、トラオレはラ・レアルの選手として、パリ・サンジェルマンとの2試合が最低のパフォーマンスになり、このトライアングルは全く機能せず、散り散りになっていた。

 このような理由が重なり、パリ・サンジェルマンとの第2戦で久保は、今季好調のバレネチェアがケガ明けでベンチスタートになったなか、試合の流れを変える責任を負わなければならなかった。しかも、ベストパートナーだったふたりが調子を崩し、久保のために壁パスやスペースを作る働きができない状態のなか、その仕事を遂行する必要があったのだ。もちろん久保はすばらしい選手ではあるが、まだ奇跡を起こすほどの力はない。

【久保自身も低迷している】

 今回の敗戦は、久保にも責任があるのは明らかだ。昨季および今季序盤に示したレベルの高さによって、彼はチームのベストプレーヤーのひとりに数えられていた。大事な局面で前に出なければいけない選手であり、チームのなかでより決定的な役割を果たさなければいけない選手なのだ。

 彼はその地位を確立したことで、数週間前に契約延長した。にもかかわらず今季は重要な試合において、決定的なプレーを見せられていない。

 シーズン最初の2、3カ月は簡単にゴールネットを揺らし、マーカーが誰であるかなど考えることなく対峙し、コンスタントにチャンスを生み出していた。しかし月日が経つにつれ、自分がベストの状態にはないと自覚し、フラストレーションを感じる選手へとなっていった。そしてアジアカップ参加がそれに輪をかけたのだ。

 久保は同大会の1週間前、自分の給料を支払ってくれているチームでのキャリアがこの大会で途切れてしまうことに不快感を示していた。もちろんそれは日本代表として活躍したくないからではない。シーズンの重要な局面で抜けることで、チームに迷惑をかけると感じたからだ。

 日本代表と久保のアジアカップでの歩みは慎ましいものとなり、サン・セバスティアンへの帰還は誰もが予想していたよりも早かった。久保は気落ちした状態で戻ってきたが、ラ・レアルにとってはビッグニュースとなった。しかし、久保はチームに合流した後、すでに大会前に崩していた調子を取り戻せてはいなかった。

【チームが今後やるべきこと】

 パリ・サンジェルマン戦後にマルティン・スビメンディが語ったように、ラ・レアルはマジョルカにPK戦で敗れて国王杯決勝に進むことができず、CLも敗退し、わずか1週間で今シーズンの大きな目標を2つ失ってしまった。

 このようなチームの低迷を受け、クラブの財政部門は今、今季最大の目標である欧州カップ戦の出場権獲得が危うい状況にあるのを感じているはずだ。もしそれが達成された場合、クラブ史上初となる5季連続での欧州カップ戦参加が決定する。

 これはヨーロッパのコンペティションを戦うことで継続的に収入を得るという条件で選手たちの給与水準を引き上げているラ・レアルにとって、その経済力を維持するために必要不可欠な要素である。

 また財政面だけでなく、チームの戦力を維持することも重要だ。ラ・レアルのサポーターは今夏、スビメンディ、ミケル・メリーノ、ロビン・ル・ノルマン、そして久保が、ビッグクラブから断りきれないほどのビッグオファーを受けることを恐れている。

 ラ・レアルのプロジェクトの安定性、サン・セバスティアンでの平穏な生活、サポーターとのつながりは、彼らに残留を促す大きな材料だ。

 しかし、すでに欧州レベルで地位を確立しているこれらの選手たちが、大観衆の前でヨーロッパのコンペティションをプレーするという刺激を得られなくなった場合、これらの残留を促す材料すべてが大きな重みを失うことになる。

 また、ヨーロッパリーグに参加するか、多くのサッカーファンからマイナーな大会と見なされているカンファレンスリーグに参加することでも状況は変わってくるだろうが、いずれにせよ、彼ら全員を来季ラ・レアルに留めるというのはおそらく至難の業だ。

 久保は先日、2029年までの契約延長を終えたばかりのため、少なくともあと1シーズンはサン・セバスティアンで過ごすべきだと思うが、移籍市場ではどんなことも起こり得る......。

 これらの理由から、ラ・レアルはできるだけ早く気持ちを切り替えて今の悪い流れを変え、唯一残されたラ・リーガで着実に勝ち点3を積み重ねていく必要がある。今季をいいものとするか、それとも大きな失望とするかは残り11試合に懸かっている。

 シーズン終盤にスペインサッカー界屈指の強豪たち(レアル・マドリード、バルセロナ、アトレチコ・マドリード)との対戦を控えているため、それを成し遂げるのは容易ではないだろう。

 しかし、ラ・レアルの選手たちはこれまで、そのようなチームと渡り合えることを存分に示してきた。だからこそサン・セバスティアンでは皆、クラブが掲げる目標が達成されると信じて疑わないのだ。
(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)