■連載「大学スポーツを考える」(5) 日大ラグビー部で、上級生からいじめ被害にあったという男子部員の父親からの訴えを受け、日大は「ラグビー部組織体質に関する外部調査委員会」(委員長・宮田桂子弁護士)を設置し、今年1月、調査報告書と改善状況を…

■連載「大学スポーツを考える」(5)

 日大ラグビー部で、上級生からいじめ被害にあったという男子部員の父親からの訴えを受け、日大は「ラグビー部組織体質に関する外部調査委員会」(委員長・宮田桂子弁護士)を設置し、今年1月、調査報告書と改善状況を公式サイトで公開した。

 報告書は訴えの事案のみならず、上級生の下級生に対するしごきや、ラグビー部が使う寮の管理体制の不備などを指摘。複数の改善策を提言している。

 調査委は外部の弁護士3人で構成され、報告書は昨年8月31日付。資料の分析に加え、指導陣7人や学生17人に事情を聴き、A4用紙39枚にまとめられた。

 報告書によると、複数の学生の供述として、仕事のミスや部のルール違反への指導と称して、上級生が下級生を夜遅くにグラウンドで走らせたり、屋上で数時間正座をさせたりという罰則を科していたという。

 ルール違反をした部員がいる学年の部員を集め、「連帯責任」として、屋上で長時間、四つんばいの姿勢を取らせたこともあった。嫌がる下級生を丸刈りにするよう命じたこともあったという。

 これらの行為について、報告書は「ミスやルール違反をしたのだから(中略)罰として坊主にしたり厳しいトレーニングを行ったりするのはやむを得ないという考えが、学生だけでなく指導者にも少なからず存在したという点は大きな問題であった」と指摘する。2023年度はこうした行為は行われなかったとしている。

 報告書は寮についても、具体的な問題点を挙げた。ラグビー部の朝練は午前5時から始まることもあり、約130人の部員は原則入寮していた。しかし、寮は一部屋を8人で使うこともあり、「何も不満はない」「体育会としての覚悟があれば大丈夫」という部員がいる一方、「プライバシーがない」との声が出た。室内で上級生に理不尽な命令を受けたという訴えもあった。

 22年度は、寮で常に一緒に寝泊まりして対話するコーチ陣がおらず、秩序が乱れる一因となった。報告書は「寮内における学生の私生活を管理する者がいない状況にあった」と記す。

 男子部員のいじめ被害については、上級生が寮内でライターの炎にスプレーを当て、大きくなった炎をその部員に近づけたという事実が、複数の証言で確認された。報告書は、加害者となった上級生個人の問題だけでなく、寮の管理体制が不十分だったことも原因になったと指摘する。

 報告書は、これらの課題の再発防止策として、「ルール違反をした部員に対するペナルティーの明確化」や「寮への常駐をヘッドコーチの選任条件とすること」などを提言している。

 日大はこれらの提言を元におおむね改善を進めると回答。ただ、寮の常駐をヘッドコーチの条件とすることは人材確保の観点から難しく、管理人を外部に委託し、夜間の見守りを警備会社に依頼するなどの対応を検討しているという。

■【視点】体質改善には時間がかかる

 日大ラグビー部をめぐる報告書は、作成した「組織体質に関する調査委員会」の名が示す通り、ラグビー部の実情を通じて、世の中で批判的に取り上げられがちな「体育会」的な体質をあぶり出している。

 上級生による過度なトレーニングや丸刈りの強要に、寮生活でのゆがんだ上下関係……。仲間へのリスペクトを欠いたそれらの行為に対し、部員や指導者が「100%ダメだ」と断じ切れないことが、こうした問題が繰り返される要因となっていると思う。

 雑用でのミスや部のルール違反に対する後輩への懲罰的な「しごき」は、同じ過ちを繰り返さないための処方箋(せん)。社会に出ればもっと理不尽なことはある――。そんな固定観念が、指導と体罰の境界線をあやふやなものにしてきた。

 報告書はルール違反者への指導の明確化などを求めた。必要な対応と思う一方で、管理を強めるだけで130人もの学生がいる部の体質を改善できるのか。周りも答えをすぐに求めるのではなく、長い目で見守る我慢強さが必要になる。(野村周平)