春は出会いと別れの季節。馬の世界では3月は繁殖シーズンとあって牝馬の引退が多くなる。そういった事情ゆえ、毎年この時期に組まれている中山牝馬ステークス(4歳上牝・GIII・芝1800m)は、多くの実力派牝馬のラストランの舞台となってきた。…

 春は出会いと別れの季節。馬の世界では3月は繁殖シーズンとあって牝馬の引退が多くなる。そういった事情ゆえ、毎年この時期に組まれている中山牝馬ステークス(4歳上牝・GIII・芝1800m)は、多くの実力派牝馬のラストランの舞台となってきた。

 これまでに中山牝馬Sを勝利して引退した馬は3頭いる。85年のシャダイコスモス、07年のマイネサマンサ、09年のキストゥヘヴン。中でも最も有名なのはGI馬キストゥヘヴンだろう。

 3歳時の桜花賞を安藤勝己騎手とのタッグで制覇。その後は勝利どころか、勝ち負けにすら加われないレースが続いたが、5歳を迎えて復調。京成杯AHで2年5カ月ぶりとなる重賞3勝目をゲット。そして迎えた6歳、ラストランに選ばれたのが中山牝馬Sだった。

 前走の東京新聞杯で10着に大敗していたこと、さらにはトップハンデタイの56.5kgを影響したのか、実績を思えば低評価の4番人気だったが、この日のキストゥヘヴンは一味違った。約2年ぶりのコンビ結成となった横山典弘騎手に導かれ、先団のインを確保。リズム良く運ぶと、直線では内ラチ沿いから脚を伸ばす。同じくGIウイナーのピンクカメオもしぶとく踏ん張ったが、坂を上がるとグイッと抜け出し、1馬身差を付けてゴール。ラストランで重賞4勝目を挙げたのだった。

 繁殖牝馬となったキストゥヘヴンは、これまでに8頭の産駒を送り出している。タイムトゥヘヴンは22年のダービー卿CTを制し、母仔重賞制覇を達成。また、孫のヒュミドールは重賞で2着3回。惜しくもタイトルには届かなかったが、中長距離路線で息長く活躍した。後継繁殖にも恵まれたキストゥヘヴンの名前は、今後も血統表に残り続けることだろう。

 そのほか、勝利こそならなかったものの、15年のアイスフォーリスや17年のマジックタイムが2着に入るなど引退馬の好走も目立つ中山牝馬S。今年はククナがこのレースを最後に引退予定。どんなラストダンスを見せてくれるのだろうか。