2024シーズンのF1開幕戦、バーレーンGP決勝を終えてマシンから降りた瞬間の角田裕毅(ビザ・キャッシュアップRB)は、必死に怒りを抑えていた。チェッカードフラッグを受け、ピットに戻ってくるまでの1周でフラストレーションを発散させ、マシン…

 2024シーズンのF1開幕戦、バーレーンGP決勝を終えてマシンから降りた瞬間の角田裕毅(ビザ・キャッシュアップRB)は、必死に怒りを抑えていた。チェッカードフラッグを受け、ピットに戻ってくるまでの1周でフラストレーションを発散させ、マシンを降りたあとの自分がどう行動すべきかを冷静に考えたのだろう。

「残り数周のあのタイミングでドライバースワップの指示が出されたのは、正直に言ってチームが何を考えていたのか、僕には理解できません。なので、チームと話をしたいと思います。結局、彼(ダニエル・リカルド)もオーバーテイクはできなかったわけですし」


角田裕毅の2024シーズンがついに始まった

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 ドライバー個人の利益よりもチームの利益を優先するために、チームがポジションの入れ換えを指示するのは珍しいことではない。今回の場合も、13位を走り前のケビン・マグヌッセン(ハース)を抜きあぐねていた角田よりも、新品ソフトタイヤを履いたリカルドのほうがペースが速かったのは確かで、スワップの指示自体は理解できるものだ。

 チームCEOのピーター・バイエルは、チームの利益を最優先に全員で協力しようという合意をレース前に交わしていたと説明する。

「トップ5チームの10台がすべて完走すれば、我々にとって入賞することは極めて難しい。だからチーム全体が一致団結し、1台のマシンに精力を集中してトップ10目指して走らせるということで合意していたんだ。

 そしてレース終盤、裕毅がマグヌッセンの背後についた時、彼はなかなか抜くことができず、後方のダニエルのほうがソフトタイヤで速い状況だったから、抜くことができないならドライバースワップをすると話した。我々は裕毅に2周の猶予を与え、その間に抜くことができなかったから『ドライバースワップをしてくれ』と伝えた」

 スワップの指示と、そこに至るプロセスは自然なものだ。

 問題は、最後まで抜けなかったリカルドにポジションを戻す指示をしなかったことだ。これは、一般的にドライバースワップの指示を出す際には当然の条件として付帯されるものだが、RBの場合はそれがなかった。

【角田裕毅が「許せない」気持ちになるのは当然】

 バイエルCEOは、チームとしてはどちらが13位でも構わず、ポイントが絡まないのであればわざわざ順位を戻す必要はないと判断したと説明する。

 だが、ドライバーとしては許せないという気持ちになるのは当然だった。角田にとってはチームメイトのリカルドに対し明確な優位性が示せるどうかが2025年以降のキャリアに直結するだけに、どちらが13位でも構わないなどとは言えないのだ。

「そうですね。(ドライバースワップをする際の)ルールとしてきちんと話し合っておくべきだと思いますし、今後に向けてきちんと見直す必要があると思います」


開幕戦のバーレーンGPは恒例のナイトレース

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 レース後、ローラン・メキース代表が角田の個室に向かい、長時間にわたって話し合いが行なわれた。メキース代表はチーム新体制の初戦でさまざまな要素がきちんと整理されていなかったことを説明し、角田の感情に理解を示し、今後に向けてチーム一丸となって改善していくことを約束し、角田もそれに理解を示したという。

 ある意味では、失ったのが13位でよかった。入賞ができるかできないかという瀬戸際でこのようなことになる前に、きちんと"地ならし"ができていたのはよかったと前向きに考えるべきだろう。

 問題は、10位入賞のチャンスをみすみす逃してしまったことだ。

 角田は初日の大苦戦から予選11位へと挽回を見せ、フリー走行でトライしたセッティングの方向性が間違っていたにもかかわらず、そのトライと失敗があったからこそ最適なセットアップが見つけられたとチームを賞賛した。そこには角田自身の「クオリティ最優先」というアプローチもしっかりと貢献していたはずだ。

 その結果が、Q3進出までわずか0.007秒という予想外の好予選だったのだ。

 スタートもしっかりと決め、ルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)の後方10位を堅守した。1回目のピットストップを9周目という早いタイミングで行ない、アンダーカットを果たしたランス・ストロール(アストンマーティン)や周冠宇(ジョウ・グアンユー/ステーク)に対し、5周引っ張ってそのタイヤ差を生かしてコース上で抜き返した。

【明らかな戦略ミス。角田はすでに手遅れだった】

 その抜いた相手であるストロールが10位入賞を果たしているのだから、角田にも入賞のチャンスは十分にあったのだ。10位を走っていれば、ドライバースワップ騒動もなかったはずだ。

 27周目という極めて早いタイミングでピットインしたストロールに対し、RBは反応できなかった。いや、次の周に反応してピットインしても、もはやストロールをカバーしてポジションを守ることはできなかった。

 だから、再び1周でも長くステイアウトしてタイヤ差を作り、最終スティントのコース上で逆転するしかなかったのだ。事実、角田の0.8秒前にいた周冠宇が翌周ピットインし、かろうじてストロールの前で戻っている。つまり、角田はすでに手遅れだったのだ。

 なぜなら、新品タイヤに履き替えたストロールのペースが予想以上に速かったからだ。RBはそのペース差を読みきれていなかったから、2.7秒のギャップで十分だと思っていた。しかし、実際には違った。

 各車のペースはほぼ横ばいで推移していたが、それは路面もどんどん向上していたからで、実際にはタイヤは大きく性能低下が進んでいた。1周あたり0.1秒低下するなら、新品に履き替えれば2秒は速くなる計算だ。

 その路面の改善を読み誤り、デグラデーションも読み誤った。だから、ストロールとの間に十分なギャップを築けず、逆にアンダーカットを防止する唯一の方法である「先にピットインする」という戦略を採ることもできなかった。

 RBのこうしたタイヤの読み間違いによる戦略ミスは、最近でも昨年のオランダGPや日本GPでも起きている。タイヤに関するエンジニアリングを見直すのが急務と言える。

 上位4チーム8台は圧倒的な差があり、追いつけない。しかし今回のように、中団トップにいれば入賞のチャンスが巡ってくることもある。

 しかし、中団グループの4チームは極めて僅差で、実際にQ1で敗退した周冠宇が戦略をうまくやることによって中団トップの11位を獲得できるくらい、タイトな争いだ。

【1週間後のサウジアラビアGPでリベンジなるか】

「ポイントを争えるところにいる」というのはポジティブな要素だが、タイトだからこそ、戦略の重要性は今まで以上に増している。

「ストラテジー(戦略)が完璧だったら、いけたんじゃないですかね。僕としては入賞圏でかなりいいレースができていましたし、急にポジションを落としてしまったのはかなりつらいレース展開でしたけど、そこから学んで、今後このようなことが起きないようにする必要があると思います。

 ストラテジーがうまくいかなかった理由のひとつには、僕がタイヤの状況などをしっかりとフィードバックしきれなかったこともあるかもしれない。なので、彼らが正確に戦略をアジャストできるように、そこは改善していきたいと思います」

 チームはすでに問題に向き合い、対策し、次に向かっている。わずか1週間後の第2戦サウジアラビアGPで、リベンジを見せてもらおうではないか。