けたたましいサイレンと赤色灯が、無人のトンネルの後方から近づいてきた。 「事故でもあったんかな」 自転車をこぎながら、佐原総将(そうしょう)さん(29)はそう思った。 少し前から、後ろにも対向車線にも、車がまったくいないことが気になってい…
けたたましいサイレンと赤色灯が、無人のトンネルの後方から近づいてきた。
「事故でもあったんかな」
自転車をこぎながら、佐原総将(そうしょう)さん(29)はそう思った。
少し前から、後ろにも対向車線にも、車がまったくいないことが気になっていた。
見当違いだった。
パトカーは佐原さんの横で止まった。警察官が血相を変えて近寄ってくる。
「どこから入った! ここ自動車だけじゃ!」
そこは関門トンネルだった。
山口県下関市と福岡県北九州市をつなぐこのトンネルは、「車道」と、歩行者と自転車が通る「人道」に分かれている。
2021年4月、佐原さんは間違えて車道に入り込んでしまった。通報により、トンネルは20分ほど封鎖された。車がいなかったのは、そのためだった。
警察からこっぴどく注意された。故意ではなかったことなどから、事情を聴かれた後に解放された。
佐原さんは大阪市出身の靴磨き職人。自転車で移動しながら、出会う人々の靴を磨き、日本一周の旅をしている最中だった。
「おそらく数千人規模でご迷惑をおかけしました。すみませんでした」
旅の様子をつづる自身のSNSに、おわびの投稿をした。数日後、1通のダイレクトメッセージ(DM)が届いた。
「すごいスピードでママチャリをこいで関門トンネルを走る姿を見ちゃった者です」