高校野球で歴代最多とされる通算140本塁打を放った岩手・花巻東高の佐々木麟太郎(3年)が、米スタンフォード大への進学を決めた。 プロ志望届を提出していれば、昨秋のドラフトで1位指名された可能性が高かった強打者。異例ともいえる進路は、大きな…

 高校野球で歴代最多とされる通算140本塁打を放った岩手・花巻東高の佐々木麟太郎(3年)が、米スタンフォード大への進学を決めた。

 プロ志望届を提出していれば、昨秋のドラフトで1位指名された可能性が高かった強打者。異例ともいえる進路は、大きな話題を呼んでいる。

 「勉強も野球も頑張りたい」「人間として成長したい」

 佐々木のそんな思いを聞いて、同じように高校卒業後、すぐに海を渡った選手を思い出した。

 昨春、智弁和歌山高から米ハワイ大へ進んだ武元一輝(いつき)(19)だ。

 高校2年生の夏、第103回全国選手権大会で優勝に貢献し、翌夏も甲子園に出場。188センチの長身から150キロ超の速球を投げ、打っても高校通算20本塁打を放った。

 プロスカウトの評価も高く、高卒後にプロ野球へ、という選択もあったが、「周りの人と同じことをするのがあまり好きではない」。中谷仁監督からの「スケールの大きな選手になれ」という言葉にも背中を押された。

 米国生活が1年たち、現在の心境を聞いてみると、こう返ってきた。

 「野球でも勉強でも長所を伸ばしてくれる。やるかやらないかは自分次第だけど、伸び伸びとプレーできる環境が僕にはあっている。アメリカに来てよかった」

 高校時代は「『This is a pen』のレベルだった」という英語力も、1日8時間の勉強とホームステイ生活などを通して、「コミュニケーションをとれるくらい」までに成長。レストランでの注文も問題なく、映画も理解できるそうだ。

 野球では投打の二刀流を続けている。

 2月に大学野球シーズンが開幕。1年生ながら2月17日(日本時間18日)のミシシッピ大戦に2番手で登板。3回を投げ、1安打6奪三振の好投でチームの今季初勝利に貢献した。

 いま振り返ると、武元も佐々木も高校時代から大人びていたように思う。2021年春。私が取材で智弁和歌山高を訪れると、突然、雨が降ってきた。さっと傘を差し出し、「何の取材ですか?」と笑顔で声をかけてくれたのが、初対面の武元だった。

 同じような雰囲気を感じさせてくれたのが佐々木だった。

 昨秋の国体。高校生活最後の試合で敗れた直後の取材中、私は手を滑らせてペンを落としてしまった。大勢の記者がいる中、佐々木は私がペンを拾い上げるのを待ち、「大丈夫ですか?」と一呼吸置いてから話し始めてくれた。

 どちらも何げない心遣い。だが、その振る舞いは強く印象に残っている。相手の目をしっかり見て受け答えする姿も、2人に共通する点だ。

 武元は1歳下の佐々木の決断を歓迎する。

 「アメリカの大学はすごく楽しい。野球も勉強も頑張ってください。応援しています」。両大学とも全米大学野球協会(NCAA)の1部に所属。対戦する日を心待ちにする。

 ともに家族や友人のもとを離れ、目先の将来よりも、人生の未来図を描いて異国の地で挑戦する道を選んだ。

 「大リーガー」という夢の近道になるかはわからないが、それ以上の価値観を手に入れられる期待感もある。多様性、国際化の時代のなか、野球少年たちへ新しい選択肢を与えるきっかけになるかもしれない。

 少し大人びた高校球児だった2人はどんな「人間」になっているのだろう。数年後、十数年後、また取材できる日を楽しみにしている。(山口裕起)