『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』公開記念福澤達哉さんインタビュー 映画『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の公開に合わせ、原作の漫画も愛読しているという元パナソニックパンサーズ・福澤達哉さんに話を聞いた。長らく男子バレー日本…

『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』公開記念

福澤達哉さんインタビュー

 映画『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の公開に合わせ、原作の漫画も愛読しているという元パナソニックパンサーズ・福澤達哉さんに話を聞いた。長らく男子バレー日本代表としても活躍した福澤さんが、作品の魅力や日本バレーボール界への影響などを語るとともに、ベストメンバーも選んだ。


公開後の記録的動員が話題の映画『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』(c)古舘春一/集英社

【『ハイキュー‼』は

「トレンドを押さえている」】

――福澤さんは『ハイキュー‼』とⅤリーグのコラボイベントで解説を務め、ファンからも「わかりやすい」「漫画のシーンと結びつけて話してくれてうれしい」と好評でした。あらためて、作品の魅力を伺えますか?

福澤 まず、バレーボールをしっかり描いてくれているところです。単なる"スポ根漫画"ではなくて、今のバレーのトレンドを押さえている。技術的な部分でも、ネット越しの駆け引きなど、普通にバレーを見ていたら気づかない点を拾ってくれています。読んだ人は「選手って、こんなに考えながらプレーしてるんだ」と思うでしょうね。

 バレーは、アタックやサーブの迫力が目立ちがちですが、ひとつひとつのプレーの間にさまざまなことを観察・思考していることが理解できるはず。バレー経験者や詳しい人はもちろん、よく知らない人が見てものめり込めるでしょうね。

――登場人物についてはいかがですか?

福澤 作品の中心になっているのは、烏野高校のミドルブロッカー・日向翔陽とセッター・影山飛雄かもしれませんが、他のどのチームにも、さまざまな特徴がある選手がいます。パワーがある、反射神経がいい、手が長い、高さがある......そういった選手に合わせた戦術も、実際に"ありそう"なんです。

 例えば木兎光太郎を擁する梟谷学園高校だったら、エースの力を最大限に生かす戦い方をする。近年の春高バレーもそうですが、選手それぞれの役割がはっきりしたチームが勝ち上がっている印象があります。現実とリンクすることで、いっそう躍動感が伝わるすごい漫画、アニメだと思いますね。

【「共感できるキャラクターが必ずひとりはいるはず」】

――福澤さんの目線で、特に「リアルだな」と感じた部分はありますか?

福澤 試合中にある、選手の感情の浮き沈みが丁寧に描かれていると感じます。日向と影山が、お互いに「自分がなんとかしなくちゃいけない」と思いすぎて、気持ちのズレが生まれる、といった場面も「あるある」と思いましたよ。自分のキャパシティー以上のことをやろうとした途端にうまくいかなくなることは、現役時代によく経験しました。

 そういう時は、何かのきっかけで「あ、自分の武器はこれだった」と気づくと、お互いを信頼したプレーができる。『ハイキュー‼』はそこまで描いているのがすごいです。あとは、試合中にリリーフサーバーで入ってくる選手の心情描写も印象的でしたね。

 バレーは流れがあるスポーツですし、大切な1点、チームメイトとの関係、試合相手の実力や調子、どういう位置づけの試合なのか、といった要素でメンタルが揺らぎます。どのスポーツでもそうでしょうが、そのコントロールはすごく重要です。だから選手たちは、お互いを支え合いながらプレーする。影山はかつて孤独だったところから変わっていく様が描かれますが、そこも感情移入しやすいですね。

――強く印象に残っているシーンはありますか?

福澤 烏野高校のミドルブロッカーの月島 蛍が、試合序盤からリードブロックで仕掛け、「ここぞ」というところで白鳥沢学園高校の絶対的エース・牛島若利をシャットアウトするシーンでしょうか。月島のようないやらしいタイプの選手はたくさんいるんです(笑)。

 ただ月島は、なんとなく冷めた部分もあったところからバレーに向き合い、自分の身体能力が高くないことを分かった上で勝負した。他者との比較ではなく、自分の強みや弱みを把握し、自分の強みを最大化した。すべての選手にストーリーがあるので、自分が共感できるキャラクターが必ずひとりはいるはずです。

――月島は音駒高校の黒尾鉄朗からブロックを教わった、いわば"師弟関係"です。福澤さんも高校時代、違う高校の選手に何かを教わることがありましたか?

福澤 私の高校時代は、そういったことはあまりなかったと思います。ただ、合同合宿や練習試合をたくさんやっていると、自然に情報交換をしていることもあるし、うまい選手をマネしてプレーすることはありましたね。ライバルに学ぶことはたくさんありました。

 私の高校世代に春高バレーを制した(2004年)、佐世保南という長崎のチームからも多くを学びました。当時としては珍しく、センター線の攻撃を多用するタイプのチームでした。そこで初めて、「コミットブロック(どこに飛ぶか、あらかじめ決めたブロック)などで真ん中を抑えないと上に行けないんだ」と、翌年のインターハイに向けて練習に取り入れたりした。

 今年の春高は、型がはっきりした駿台学園が制しましたが、他校は「それを打開するためにどう攻めればいいのか」を考える。そこでまた駿台学園がアップデートする、ということを繰り返して切磋琢磨しながらレベルが上がっていく。だから、来年以降の春高も楽しみですね。

【春高バレーのレベルアップは『ハイキュー‼』の影響も!?】

――劇場版では日向と音駒の孤爪研磨のライバル関係も描かれますが、福澤さんの同世代でライバルの選手はいましたか?

福澤 私の場合は清水邦広(パナソニックパンサーズ)ですね。私は洛南、清水は福井工大福井でしのぎを削りあいました。

――福澤さんと清水さんは高校時代、春高やインターハイなど全国大会では常に対戦していましたね。

福澤 そうですね。互いの手の内を知った相手との対戦は、特別感もありますし、「あいつには負けたくない」という意識が強くなりました。日向と孤爪のように、同世代にライバルがいたことは、すごく恵まれていたと思います。

 そういった「関係性」は、普段私が解説をする時に大事にしているテーマのひとつです。選手の背景、成長過程、相手の選手との関係性などを知った上で試合を見ると、また違った見え方になりますから。今回の『ハイキュー‼』の劇場版では、その「関係性」が大きなテーマになるでしょうから、そこも楽しみですね。

――福澤さんは「春高バレーのレベルが上がってきている」と話していますが、『ハイキュー‼』の影響もあるでしょうか。

福澤 代表が活躍していることもあるでしょうが、『ハイキュー‼』の影響は大きいと思いますよ。単純にバレーに関心を持つ子供たちが増えたでしょうし、バレーを始めてからも、練習方法、さまざまな技術、攻守の戦術などを、楽しみながら無意識のうちに学ぶことができる。これほど強いツールはないですね。

――「ゴミ捨て場の決戦」の中で、特に楽しみにしているシーンはありますか?

福澤 ずっとクールだった孤爪が、試合の中盤から終盤にかけて、珍しく感情を出した場面でしょうか。やっぱり思い入れの強い試合になればなるほど、感情も自然と表に出てくるものなんですよね。

――劇場版の『ハイキュー‼』が公開されることで、またバレー界に大きな影響がありそうですね。

福澤 バレーに携わる人間としても、とてもうれしいです。『ハイキュー‼』を入り口に「バレーの試合を見てみたい」と思う方は多いでしょうし、実際にⅤリーグや日本代表の試合を見て、「『ハイキュー‼』にもこんなシーンがあった」とバレーに興味を持ってくれたらいいですね。

 その流れは、すでに東南アジア、世界中に広がっています。やはり漫画やアニメは、日本が世界に誇る文化のひとつです。昨年のネーションズリーグのフィリピン大会で、日本代表が地元ファンから大声援を受けるなんて、以前は想像すらできませんでした。『ハイキュー‼』は間違いなく、日本と世界のバレー界をつなぐ"架け橋"になっています。

 それも、作者・古舘春一先生のバレーに対する愛があってこそでしょう。あらゆる描写から、ご自身がかなり勉強されているのがわかりますし、「もっとバレーを知ってもらいたい」という思いも強く感じます。私も力をもらって、バレーというスポーツを少しでも日本に広めていけたらと思います。

◆福澤さんが選んだ『ハイキュー‼』ベストメンバー

セッター:及川 徹(青葉城西3年)

ミドルブロッカー:黒尾鉄朗(音駒3年)、角名倫太郎(稲荷崎2年)

オポジット:牛島若利(白鳥沢学園3年)

アウトサイドヒッター:木兎光太郎(梟谷学園3年)、澤村大地(烏野3年)

リベロ:西谷 夕(烏野2年)

【プロフィール】
福澤達哉(ふくざわ・たつや)

1986年7月1日生まれ。京都府京都市出身。洛南高校時代に春高バレーに2度出場、インターハイでは3年時に優勝を果たした。卒業後は中央大学に進学し、1年時の2005年に初めて日本代表に選出。ワールドリーグで代表デビューを果たすと、2008年には清水邦広と共に最年少で北京五輪出場を果たす。大学卒業後はパナソニックパンサーズに入団。ブラジルやフランスのリーグにも挑戦しながら、長くパナソニックの主力としてプレーした。2021年8月に現役を引退して以降は、解説者など活躍の場を広げている。