『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』公開記念日向翔陽役・村瀬 歩さんインタビュー 後編(前編:役へのアプローチ法、初めて現場で会って「怖いなぁ...」と思った先輩声優とは?>>) 2月16日に公開され、大きな話題になっている映画『劇場…

『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』公開記念

日向翔陽役・村瀬 歩さんインタビュー 後編

(前編:役へのアプローチ法、初めて現場で会って「怖いなぁ...」と思った先輩声優とは?>>)

 2月16日に公開され、大きな話題になっている映画『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』。主人公の日向翔陽を演じる村瀬 歩さんは、アニメ化された2014年の第1期から携わっている。

インタビュー後編では、劇場版の収録に関する秘話、『ゴミ捨て場の決戦』で「すごいな」と感じたセリフなどについて語った。


村瀬さんが印象的なシーンに挙げた

「ゴミ捨て場の決戦」でのひとコマ(c)古舘春一/集英社

【『ハイキュー‼』は映画館で観るのに最適】

――今回の劇場版は、アニメとしては2020年に放送されたテレビアニメシリーズ第4期以来。日向と向き合うのも久しぶりだったのでは?

村瀬 それが、ソーシャルゲームやPV、ラジオ、イベントなども多いので、久しぶり感は全然なかったです(笑)。

――2014年にスタートしたテレビアニメ『ハイキュー!!』はこれまで4シリーズが作られ、それぞれの総集編として劇場版が作られましたが、今回の作品はテレビアニメの続編となり初めての劇場版単体作品になります。当初、劇場版の制作を聞いた時はどう感じましたか?

村瀬 バレーボールは試合時間がそれほど長くないですが、内容がとても濃いので、そのスピード感が劇場作品に適していると感じていました。それに、アニメ『ハイキュー!!』は音響や絵作りにとてもこだわっている作品です。例えば、ボールがバウンドする音なども、かなりダイレクトに感じられるのではないかと思います。映画館の音響設備で観ることを考えても最適の作品ですね。

――収録当時のことを振り返っていただけたらと思いますが、最初に台本を読んだ印象はいかがでしたか?

村瀬 初めに製本された台本が手元に届くのですが、それが4冊あったんです。映画の上映時間は85分。アニメの1話がオープニングとエンディングを入れて約22分なので、単純計算で約4倍。「これを一日で撮るのか......」と唖然として、その日は台本をそっと脇に置きましたよ(笑)。それで、翌朝に読みました。

 今回の『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』、主人公は日向ですが、一方で満仲 勧監督がお話していたとおり、対戦相手の孤爪研磨の物語でもあります。ただ試合をするだけでなく、過去の回想や研磨目線から見た光景、彼を取り囲む人物たちに起きていることが、烏野と音駒によるライバルの絆としてうまく描かれている。台本を読んで「さすがだな」と思いました。また、なんとなくしか『ハイキュー‼』のストーリーを知らない人でも、研磨がバレーにハマることに対して「エモい」と感じてもらえる導線もできていましたね。

【収録の苦労と、それを乗り越えた楽しさ】

――それにしても、収録がたった一日で行なわれたとは驚きですね。

村瀬 収録が行なわれたのは昨年の10月頃でした。主要なキャラクターを演じる声優さんたちと一緒に収録したのですが、朝の10時に始まって、終わったのは22時。最後のほうはヘトヘトでした。ただ、肉体的にも疲労が溜まった分、レコーディングが終わった時の達成感はものすごかったです。普段はテンションが低めな声優さんも、「部活もこんな感じなのかな!?」と気分が高揚していましたから(笑)。

――収録中の雰囲気はいかがでしたか?

村瀬 『ハイキュー!!』は、アニメの中でもカット数が多いんです。一般的には1話あたりでおよそ240、多くて300ほどですが、『ハイキュー!!』は360くらいあることも。ボールが動くたびに、みんながそこに集中して視線を送る、ボールをつなぐ、打つといったシーンが繰り返されるからです。ボールをレシーブする場面でも、ボールが腕に当たるSE(サウンドエフェクト)だけでなく、レシーブした人の声や息づかいも入れますからね。

 僕が今回参加したレコーディングは13、14人での同時収録。マイクの数は限られているので、入れ替わり立ち替わりで声を入れていくのですが、集まって行なうアフレコ自体が久しぶりだったので全員で助け合いました。芝居とはまた違う集中力が必要なので、ひと息つく度に全員がぐったりしていましたよ。

――今回描かれる烏野vs.音駒の試合自体も、読んでいて息がつまるようなゲーム内容ですが、それと同じようですね。

村瀬 あの苦しい感じは共通するかもしれませんね。僕たちキャストも、リテイク(撮り直し)をしたり、行き詰まったり、逆にいいものが生まれて乗っていったり。周りの声優さんたちにエネルギーをもらって、こちらも返すという芝居の感覚も、スポーツと似ている部分かもしれません。苦しみがあるからこそ、それが楽しさに変わる、という感じです。

【作中で「すごすぎる」と思った日向のセリフ】

――どのセリフも当てはまると思いますが、村瀬さん自身が「特に気持ちがこもった」と感じたセリフはありますか?

村瀬 日向が"モチベーションの塊"のようなキャラクターなので、これまでのシーズンもそれに助けられてきました。その中でも、「点を獲るのに近道が無いって事だけはしってる」というセリフは「すごすぎる」と思っています。

 これは、バレーの花形であるエースに憧れていた日向が、ミドルブロッカーとして"囮役"を担ったり、できなかったレシーブやサーブに取り組んだりと、いろんなことに目を向けて努力した末に出たセリフです。センスや運動神経だけではなく、バレーをする上での考える力を養い、努力してきたゆえに研磨に対抗できる土台ができていた。自分自身の努力への自信が、「点を獲るのに近道が無い」という言葉になって表れたんだと思います。

――重みがある言葉ですね。

村瀬 もう、「(作者の)古舘春一さん、すごすぎない!?」って(笑)。おそらく、初めの頃の日向がこのセリフを口にしたとしても、「まぁ、そうだね」くらいで終わっていたと思いますし。それで日向が......とさらに話したいところなのですが、それは映画館で観ていただきましょう。

 とにかく『ハイキュー!!』という作品自体が面白すぎて、僕もキャラクターたちのセリフに助けられることが多いです。今回の劇場版もそうでしたね。「自分も、声を枯らすくらい収録を頑張らないといけない。簡単な道はないんだ」と決意してマイクに向かいました。

 意外と原作の漫画を読んでいる時は、ストーリー、セリフ、絵など全部が素敵だからどんどん読み進んでしまうんです。いつの間にか読み終えて「面白かったぁ」と(笑)。なので、演者として日向視点で今回の劇場版と向き合い、ひとつひとつのシーンを演じていくことで、このセリフのよさをあらためて実感しました。

――では最後に、作品をご覧になられる方々にメッセージをお願いします。

村瀬 みなさんも我々も待ち望んだ決戦です。声優陣も頭が真っ白になるくらい叫び続けて、汗を流しました。満仲監督が手掛け、音響や大画面といった映画館ならではの迫力がそこに加わり、漫画とはまた違った面白さが感じられる作品になっていると思います。

 今作品の試合が好きな方も、まだ作品に触れていない方にも、ぜひご覧いただきたいです。一度と言わず、二度、三度......何度でも! 映画館に足を運んでいただけると嬉しいです。

(元日本代表が『ハイキュー‼』の魅力を熱弁! 福澤達哉「共感できるキャラクターが必ずひとりはいるはず」>>)

【プロフィール】
村瀬 歩(むらせ・あゆむ)

1988年生まれ。米ロサンゼルス出身。大学生の頃に声優を志し、日本ナレーション演技研究所に入所。2011年にテレビアニメ『Persona4 the ANIMATION』で声優デビューを果たす。TVアニメ『新世界より』の青沼瞬役で初めてメインキャラクターの声を担当し、2014年に『ハイキュー!!』の日向翔陽役で初主演を務める。同年の『怪盗ジョーカー』でも主人公ジョーカーの声を担当するなど、その後もさまざまな話題作に出演。2016年には、第10回声優アワードで新人男優賞を受賞した。