2024年シーズンF1開幕を前に、パドックにはすでに閉塞感さえ漂っている。今年もまたレッドブルとマックス・フェルスタッペンのシーズンになる──という、あきらめにも似た雰囲気だ。 しかし、果たしてそうだろうか? テスト3日間のベストタイムは…
2024年シーズンF1開幕を前に、パドックにはすでに閉塞感さえ漂っている。今年もまたレッドブルとマックス・フェルスタッペンのシーズンになる──という、あきらめにも似た雰囲気だ。
しかし、果たしてそうだろうか?
テスト3日間のベストタイムは、フェラーリ勢が記録した。C4タイヤを使ったとはいえ、レッドブルに対し0.758秒の差をつけている。これは0.6〜0.7秒といわれるC3とC4の差を上回るタイム差だ。
フェルスタッペン&レッドブルは今季も独走?
photo by BOOZY
フェラーリのシャルル・ルクレールは、昨年型で苦しんだ問題点が解消されていることを歓迎している。
「去年はマシンの挙動がとても不安定で、最大の弱点がなんなのかも判断がつかなくて、開発の方向性をどうしたらいいのかを理解することもとても難しかった。去年は今までのキャリアで最悪の開幕前テストだったんだ。
でも、今年はぜんぜん違う。まだ足りない部分はわかっているし、改善すべき点もわかっている」
ただ、速さではレッドブルに敵わない、という感触も語っている。
「自分たちがどこにいるのか、把握するのはかなり難しいよ。でも、僕の感覚としては、レッドブルはまだかなり前にいるんじゃないかと感じている。これはデータではなく、あくまで僕の感覚でしかないけどね」
もちろん、記録した時間帯も違えば、燃料搭載量も空タンクではなくわからない。パワーユニットのモードも違う。だから、この自己ベストタイムだけを比較しても正確な比較はできない。
F1関係者たちがテスト結果から速い・遅いを語る時、最も参考にしているのはレースシミュレーションのペースだ。
いくらでも燃料搭載量を調整できる予選シミュレーションに比べ、57周を連続走行するレースシミュレーションでは、燃料搭載量による差はほぼない。その状態でどんなペースで走り、どれだけタイヤを保たせることができるか。そこにはマシン本来のパフォーマンスがはっきりと表われるからだ。
【F1関係者たちが白旗を上げたテスト内容とは?】
まさにそこが昨年の課題だったフェラーリは、テスト2日目と3日目に両ドライバーがフルレースシミュレーションを行なった。それに対し、レッドブルはセルジオ・ペレスが2日目の日中の暑いコンディションで行なっただけで、開幕戦バーレーンGPが行なわれるトワイライトのコンディションでは行なっていないため、正確な比較は難しい。
それでも、フェルスタッペンが3日の夕方に行なった第1スティントのシミュレーションと思われる3本のロングランを見ると、ペースの速さもさることながら、タイヤデグラデーション(性能低下)の圧倒的な少なさが目立つ。
ほぼすべてのマシンが右肩下がりにペースが落ちていくのに対し、レッドブルだけは右肩上がりのペースを刻む。タイヤはタレず、燃料が軽くなった分だけペースが上がっていく状態だ。
これを見て、F1関係者たちは白旗を上げているのだ。
当のフェルスタッペンは、排水溝の蓋トラブルでセッションが中断したことを受け、2日目午後の予定を変更して3日目をフルに走ることになったが、余裕の表情を見せている。
「テストはとてもうまくいったし、これ以上を望むことはできないね。もっと周回数が少なくて済むかと思ったけど、すべてがうまくいって思った以上に走ることになってしまったくらいさ。マシンバランスはすごくいいし、マシンへの理解を深めるためにいろんな変更を施していって、何も問題なくプログラムをこなすことができた」
今年は多くのチームがレッドブルRB19に似たフォルムに追随するなか、レッドブル自身はガラリとフォルムを変えてきた。
アグレッシブに閉じたサイドポッドと、大柄のエンジンカバー。ある意味ではメルセデスAMGの昨年型を彷彿とさせるルックスだが、その根底にあるコンセプトはもちろんRB19の延長線上であり、マシンのフィーリングも大きく変わってはいないとフェルスタッペンは言う。
「チームとしては『こうしたほうがポテンシャルがある』と信じているから、これを正しいと決めたわけで、僕はチームのことを信頼している。正直に言って、僕はマシンのルックスはどうでもいいよ。速ければね。
シェイクダウンは雨だったから詳しいことまではわからなかったけど、それでも乗った瞬間から違和感なく感じられたんだ。シミュレーターで走っていたのと同じように感じられた。あとは、それを引き出すのは僕ら次第だね。僕たちがマシンバランスについてフィードバックをして、さらに改善していけるところもある」
【メルセデスAMGのハミルトンは「走っていて楽しい」】
一方、昨年は開幕当初のつまずきとコンセプト変更から、最終的にコンストラクターズランキング2位まで挽回したメルセデスAMG。マシンはレッドブル型のコンセプトを洗練させたもので、昨年型が抱えたナーバスな挙動は改善されている。
しかし、一発の速さはなく、レースシミュレーションも本格的には行なっていないため、その実力は掴めない。現状では、やや苦戦しているようにも見える。
ルイス・ハミルトンは言う。
「まだ準備の途中、といったところだね。昨年型に比べれば間違いなくよくなっているし、もちろん依然として脚回りは堅いしバンピーではあるけど、チームは冬の間にすばらしい仕事をしたと思う。
レッドブルがまだ先にいることは明らかだけど、今年のマシンは去年よりも格段に走っていて楽しいし、まだまだ速さを引き出せる。これから開発を進めていくうえで、いいベースはできていると思う」
昨年後半戦に驚異的な躍進を見せたマクラーレンも、現時点ではやや出遅れているように見える。チーム新体制の発足が今年に入ってからであり、マシンは十分な熟成が進んでいない状態での開幕となっているようだ。
テストでも細かなトラブルで走行時間をロスし、レースシミュレーションを行なうことができなかったランド・ノリスは、やや不満な様子。それでも、マシンの進歩は感じているという。
「マシンが去年よりも進化しているかどうかといえば、間違いなく進化している。いろんなところがよくなっている。でも、ライバルと比べて競争力がどうかというのはわからないからね。
いいポジションにいることは確かだと思うけど、レッドブルとの差はまだまだ大きいし、レッドブルだけでなくフェラーリともまだ大きな差があると思う。だからまだまだ改善する必要があると思っているけど、今週テストで学んだことをもとに、開幕戦に向けてさらに改善できると思う」
【中団グループで角田裕毅のライバルとなるのは?】
レースシミュレーションの結果を見るかぎりでは、レッドブルとフェラーリの次に有望に見えるのがアストンマーティンだ。
一発のタイムでは目立った走りを見せていないが、フェルナンド・アロンソはフェルスタッペンと同様に第1スティント想定と思われるロングランで良好なデグラデーションを記録している。
それでもアロンソは、アストンマーティンにとっての初優勝、自身待望の33勝目が挙げられるかという問いには、やや悲観的だった。
「勝てるクルマかどうかはまだわからない。でも、マックスとレッドブルの走りを見た今となっては、ほかのドライバーが今年勝つチャンスは彼よりも少なそうだと感じている。
今年もマックスがチャンピオンだと思うし、レッドブルが独走するだろう。彼らの新しいコンセプトはサプライズだしね。今のところ、僕らには彼らがどこまで速いのかを見ていることしかできない。19人のドライバーは、今年はもうタイトル獲得が無理だと思っているんじゃないかな。F1というのはキャリアの99%がそうだし、そういう無残なスポーツだけどね」
中団グループではウイリアムズが好走を見せており、角田裕毅のビザ・キャッシュアップRBと好バトルを見せそうだ。マシンを刷新したアルピーヌはまだ習熟の段階にあり、どんなポテンシャルを秘めているのかは未知数。
しかし少なくとも、トップ5チームと中団5チームという構図ではなく、トップから最下位までが僅差のなかでひしめくシーズンになりそうだということは、おぼろげながら見えてきた。
コンマ数秒の差で上位に浮上することもあれば、下位に転落することもある。誰もがそのチャンスとリスクととなり合わせ。2024年はこれまで以上に面白いシーズンになりそうだ。