2024年F1シーズンの開幕直前に行なわれた、わずか3日間のテスト初日。1分1秒でも無駄にしたくない貴重な時間のなかで、ちょっとしたマイナートラブルへの対応とはいえ、セッション中にマシンから降りて待つのは決して心地よいものではない。 コク…

 2024年F1シーズンの開幕直前に行なわれた、わずか3日間のテスト初日。1分1秒でも無駄にしたくない貴重な時間のなかで、ちょっとしたマイナートラブルへの対応とはいえ、セッション中にマシンから降りて待つのは決して心地よいものではない。

 コクピットから降りてヘルメットを脱いだ角田裕毅は、短い髪を掻き乱すようにして少し厳しい表情を見せた。だが、こちらに気づくと表情を変えて、ガレージの前までやってきた。


ニューマシンで初ドライブした角田裕毅の感想は?

 photo by BOOZY

「今年のクルマ、カッコよくないですか? 写真で見るより落ち着いたブルーで、いいですよね。サイドポッドの前端もあんなに細くてシャープになっているし......まぁ、それは今見て気づいたんですけど(笑)」

 フラストレーションに左右されず、メンタルをコントロールして自分がこなすべき仕事をこなす──。昨年以上にそんな意思が感じられた。

 たしかに2024年型ニューマシン「VCARB 01」は、先代AT04に比べてノーズもサイドポッドもシャープになっている。新車発表時に公開されたレンダリング画像ではAT04のままだったサイドポッドも、実車では大きく様変わりしている。

 バーレーンに来る前にイタリア・ミサノでシェイクダウンを行なった角田は、マシンの習熟も始めている。だが、重要なのはルックスではなく、マシンの挙動と速さのほうだ。

 VCARB 01は昨年のチャンピオンマシンであるレッドブルRB19のフロントサスペンションがそのまま移植され、前後サスとギアボックス、パワーユニットが同じになった。さらにレッドブルとの技術提携も強化され、空力パッケージも昨年終盤戦から急速に進化を見せてきていた。

 それだけに、シェイクダウン後には非常に期待を持たせるような好感触のコメントが躍っていたが、本人は「う〜ん......」と難しい顔をする。

【テスト最終日には5番手タイムを記録したが...】

「新車は特に去年とそんなに大きく変わっていませんし、SNSでは僕が『(VCARB 01は)いい』って言ったのを切り取って、すごくよくなっているんじゃないかって盛り上がっているみたいですけど、全然、全然(苦笑)。そもそも、そんなこと言っていませんし、そんなに大きく期待しないでくださいって感じです(苦笑)」

 チームは昨年の最終戦アブダビGPにVCARB 01用のフロアを投入しており、ここで大きくパフォーマンスを向上させた。事実、予選6位・決勝8位という好結果を残している。

 昨年と変わっていないと角田が言うのは、そのAT04最終仕様の延長線上にあるクルマであり、劇的なレッドブル化を果たしたわけではない、という意味だ。

「ボディワークは自分たちで作らなければなりませんし、パーツだってみんなが思っているほどたくさん買っているわけじゃないし、たまたまメインスポンサーが同じというだけで基本的にはまったく別のチームですから」

 だから、レッドブルとの提携を強化して新たなスタッフが次々と加入しているとはいえ、マシンが急に速くなるわけではない。いきなり表彰台争いができるわけでもない。むしろ現実は、それよりずっと過酷だ。

 最終日にはC4タイヤを履いて5番手タイムを記録したが、それは全20人中10台しか走っていない状況下での話だ。C4タイヤを履かずに淡々とプログラムをこなしているチームもあれば、燃料搭載量もマシンによって異なる。

「今のところ(リザルトを見ると)Q3に行けそうですけど、そこを切り取って見出しにしないでください(笑)。暑い時間帯にタイムを記録しているドライバーも何人もいましたし、あまり期待はしすぎないようにしています。僕たちは現実的に考えていますし、チームの雰囲気としてはなんとかQ3に進出できればいいな、といったところです。

 でも、それは簡単ではないというのが現実だと思っています。チームの体制は大きく変わりましたけど、マシンは去年までと同じ(延長線上)ですし、あまり期待値を高くしすぎないほうがいいと思っています」

【角田が語った「一番大切なのは量よりも質」】

 それでもVCARB 01は、フロントがシャープに入っていく傾向にあり、実際にフロントのグリップレベルも上がっているという。プルロッド方式のサスペンションは基本的には空力的な整流を目的としたものだが、ジオメトリー(形状)の違いからくるステアリングフィールの軽さや、コーナーの途中で路面に食いついて重さが増す感覚など、従来とは違う部分もかなりある。

「簡単に言えば『軽くなった』ということなんですけど、それだけではなくてコーナリング中の安定性だったり、コーナーのどこの部分でフロントが食いついてくるのかといったところが少し違うんです。それはマシンバランスに関係することでしかなくて、パフォーマンスを大きく左右するものではないですけど、僕としては慣れる必要があるということですね」

 この3日間しかない開幕前テストで、一番大切なのは「量よりも質」だと角田は言った。

「とにかく今回はラップ(量)よりもクオリティを目指しているので、クオリティの高いセットアップが仕上げられればと思っています。3日間でいろいろとセットアップを変えていって、さらにクルマへの理解度を深めていったり、いろんなテスト項目をひとつひとつこなしてクリアにしていって、理解度を深めていきたいと思っています。

 僕自身のドライビングとしては、まだステアリングのフィーリングだったり生かしきれていない部分がある。なので、できるだけマシンに適応して、ロングランだったりクオリティを高く速く走れるように仕上げていくところですね」

 2日目は午前中を担当し、バーレーンGP決勝と同じ57周を連続走行するフルレースシミュレーションを敢行したが、コースサイドの排水溝の蓋が外れるというトラブルでセッションは赤旗中断となり、角田は時間を失ってしまった。最終日もフロントアップライトに細かなトラブルが続いて走行時間をロスしたものの、自制心を失うことはなかった。

【ミスを犯しても「攻めてナンボ」とポジティブ】

 自分に与えられた時間のなかで何をなすべきか、そしていかに最大限にクオリティの高いテストをこなすべきか──。常にそれを意識し、コースを走る1周1周、コーナーひとつひとつを無駄にすることなく、クオリティを追求しているように感じられた。

 それはテストのクオリティだけでなく、角田裕毅自身のクオリティが上がったことを意味している。

 最終日の最後の1時間でアタックラップを連続して行なった角田は、最後にミスをして完璧なアタックを決められなかった。しかし、クオリティを高めるという点において、角田はそこにも意味を見出している。

「1回目のアタックラップはすごく満足できるラップだったんですけど、C4の最後のアタックをうまくまとめきれなかったのが残念ですね。ターン11でプッシュしすぎて大きなミスをしてしまいました。

 でも、それもいい経験になりました。あそこまでプッシュすれば限界を超えるんだというのがわかって、データからもフィーリングからもマシンの限界を掴むのに役立つと思います。攻めた結果ですし、テストなので攻めてナンボかなと思います」

 この2024年の働きが、来季以降のF1キャリアを大きく左右することになる。

 「角田裕毅の完成形を見せる」と誓った2024年の開幕に向けて、角田裕毅はすでにまた一歩、パーフェクトに近づいている。