自らの可能性 「絶対この環境で成長したいーー」。高校卒業後、サッカーを続けるかすら迷っていたという藤田智里(スポ=神奈川・大和)は、ア女(ア式蹴球部女子)に憧れ、学生最後の4年間をここに懸けると決意した。チームに向き合い、自分に向き合い、突…

自らの可能性

 「絶対この環境で成長したいーー」。高校卒業後、サッカーを続けるかすら迷っていたという藤田智里(スポ=神奈川・大和)は、ア女(ア式蹴球部女子)に憧れ、学生最後の4年間をここに懸けると決意した。チームに向き合い、自分に向き合い、突き進んできた藤田。その4年間に迫った。

 


 家の近所に女子サッカーチームが出来たことがきっかけで、小学4年生の時にサッカーを始めた藤田。みんなで作り上げるサッカーの楽しさに魅了され、中学ではクラブチーム、高校では部活動で日々練習に明け暮れた。当時を振り返り、「中学では走りや、技術的に及ばなくてもついていくための基礎を、高校では気持ちや礼儀、『人として』というところを指導してもらった。そこはア女でも活かせた部分だと思う」と語る。

 高校3年時の高校総合体育大会女子大会(総体)は、県ベスト8。決して強豪校出身とは言えない藤田は、全国レベルのクラブチーム出身者も多く所属するア女に対し、「レベル差は入った時から感じていた」と話す。でもやっぱりここでサッカーがしたい。そう強い意志を、勇気をもってア女に飛び込んだ。「高校では初心者で始める子もいたので自分が引っ張らなきゃ、と言う気持ちだった。ア女では逆に吸収することが多くて、周りから学び続ける毎日に変わった」。刺激的な毎日を送る藤田は、試合に絡めなくてもめげずに練習を積み重ね、学年が上がるにつれ段々とチャンスを掴んでいくようになる。

 そんな藤田自らが1番のターニングポイントだと語るのは、大学3年時のSEISA OSA レイア湘南FCとの試合(2022年5月28日、関東女子リーグ前期第6節、●1-3)である。「ほぼ自分のミスで失点を重ねて、とことん落ち込んだ」。ディフェンダーとして、そして上級生としてチームを引っ張り切れないことに、試合に絡めなかった入部当初とは違う悔しさ、情けなさを感じた。だが、「私にとっては、ア女で上手くなることがモチベーション。いくら辛くても、グラウンドに行くのが苦しいことはなかった。グラウンドにはみんながいて、みんなを見たら自分ももっと頑張らなきゃと言う気持ちになる」。前を向き、仲間たちに必死についていく藤田の姿がそこにはあった。

 


昨季関東リーグでは、MF大森美南(スポ=東京・八王子学園八王子)と共にキャプテンマークを巻いた

 「自分たちで何ができるのかずっと考えていた」。学年で何度も話し合い、迎えた最終学年。しかし、皇后杯の登録メンバーに藤田の名前はなかった。「監督に、『今まで試合に出られていない自分の立場で、ここからどうするかだよ』という話をされた。もう出られないと諦めてみんなをサポートするのか、最後まで上に上がり続けるのか。そこで絶対に最後まで諦めないと約束をした」。頼もしく、大好きな同期たちとサッカーができる最後の年。4年生としてア女の勝利に貢献するため、藤田はもう1度自分を奮い立たせた。

 そして、最後の全日本大学女子選手権(インカレ)では、弛まぬ努力が身を結び、メンバー入りを果たす。「最後まで成長し続けよう」という言葉を胸に、チーム一丸となって挑んだ、日本一への最後の挑戦。試合に出ることはなかったものの、藤田はア女の一員としてベンチから声を出し、チームを鼓舞した。

 準優勝という悔しい結果で最後のインカレは幕を閉じたが、藤田はこの4年間の点数として「120点」をつけた。「サッカーを続けるかすら迷っていた当初の自分から考えたら、4年間腐らずやり続けられて、本気でア女で良かったと思えた。最高のスタッフ・先輩・後輩・同期に巡り会えて、自分にとって本当に最高の環境だった」。藤田はそう語り、屈託のない笑顔を見せた。

 


インカレ決勝後、泣き崩れる後輩の肩を抱く

 「全員で」「みんなで」という言葉を何度も口にし、常にチームのことを大事にしてきた藤田。だからこそ、大好きなア女を支えるために「もっとできる」と自らの可能性を追い求め、立ち上がり続けてきた。先頭に立って引っ張ってくれる同期を信じ、自分は後ろから、「誰もはぐれてしまわないように」と気を配り、チームとしての一体感を守り続ける。そんな藤田の存在は、ア女にとってなくてはならないものだったに違いない。

 藤田は3月で大学を卒業、それとともに13年間のサッカー人生にも終止符を打つ。優しく朗らかな笑顔の裏には、努力を惜しまず、折れずに何度でも苦難に立ち向かう、揺るがない心がある。逃げずに直向きに闘い続けてきた藤田の背中は、きっとそれに続く後輩たちにとっての、大きな道標となるだろう。

(記事 熊谷桃花、写真 大幡拓登、髙田凜太郎)