ア女という「憧れ」で見つけた強さ 中学生の頃からア式蹴球部女子(ア女)に憧れを抱いてきた大森美南(スポ=東京・八王子学園八王子)。入部当初からひたすら練習を重ね、力をつけてきた中、ラストイヤーでの半月板損傷。そんな彼女を支えたのは日本一への…

ア女という「憧れ」で見つけた強さ

中学生の頃からア式蹴球部女子(ア女)に憧れを抱いてきた大森美南(スポ=東京・八王子学園八王子)。入部当初からひたすら練習を重ね、力をつけてきた中、ラストイヤーでの半月板損傷。そんな彼女を支えたのは日本一への思いと、仲間の姿だった。憧れの場所で、闘い抜いた4年間に迫る。

 


 色々なスポーツを経験してきた大森が、サッカーを頑張りたいと思ったのは、クラブチームに所属していた中学生の時。チームメイトとぶつかり合いながら、全員で一つの目標に向かってプレーする楽しさをそこで知ったからだ。早大のア式蹴球部女子(ア女)の存在を知ったのも、この時期だった。️早慶戦を見に行った時には、早稲田の誇りを背負ってコートに立つ選手たちが輝いて見えた。チームの明るい雰囲気と、サッカーに対するストイックさに魅了された大森は、直感で「ここに行きたい」と思うようになったと話す。

 高校選びのときにも、大森の中心にあったのはア女だった。強豪校に進みサッカー推薦を狙うよりも、勉強で努力した方が早大に進学できる可能性が高いと考え、八王子学園八王子高校に進学。文武両道の3年間を駆け抜け、恋焦がれたア女に入部することとなった。

 強豪校出身者ばかりのハイレベルなア女という環境の中で、入部当初は「嫌になって辞めてしまうのではないか」と思うこともあったという。試合に出られない時や、試合に出ても結果を残せないことも。しかし、落ち込むことはあっても「次はもっとこうしてやろう」と試行錯誤。中学生の頃から憧れていた場所で、「挑戦している」という気持ちで、大森はひたすら練習を重ねた。チームメイトのプレーを吸収し、戦術の話を積極的に聞き、目の前の一つひとつのことに、毎日必死に取り組んだ。3年時の関東女子サッカーリーグ(関東リーグ)、大東文化大戦(2022年7月2日、後期第3節、〇3-1)では、自らの仕掛けから低弾道の強烈なロングシュートを叩き込み、勝利に貢献。直前のミーティングで、得点を目標に掲げていたという大森の、「有言実行」のゴールだった。「自分ってこんなに折れずにやり続けられるんだ」。ア女という厳しい環境に飛び込むことで、大森はこれまで気づかなかった自分の「強さ」を見つけたのだ。

 


上述の2022年関東リーグ後期第3節大東文化大戦、大森のシュートシーン

 周りの存在も大きかった。気持ちが下がっていると監督がすぐ気付き、喝を入れられた。大森が点を決めた時には、他の人が点を決める以上にたくさんの人が喜び、応援してくれた。そして、4年間の中で心の支えになった出来事がある。それは1年生のとき、周りの同期と比べて試合に絡めず、藤田智里(スポ4=神奈川・大和)と一緒に弱音を吐いていた時期だった。同期との話し合いで、後藤若葉(スポ=日テレ・メニーナ)が「こんなに頑張っている2人が、認められていないように見えてしまって悔しい」と泣きながら話したという。自分と同じように悔しさを感じてくれる同期の姿は、大森にとっての心の支えになった。

 着実に力をつけてきた中、迎えたラストイヤー。大森に試練が訪れる。2023年6月25日、試合中の半月板損傷。手術後も、復帰の可能性は低かった。ケガの診断を受けた直後、引退まで試合に出られないという実感は沸かなかった。気持ちの浮き沈みは激しく、プレーできない悔しさを、信頼している仲間に伝えることもできなかった。それでも大森がア女を離れなかったのは、「このチームで日本一を取りたい気持ちの方が強かった」から。インカレ日本一を目指すチームへの思いが、気持ちを前向きにしたという。

 もちろん、プレーできない悔しさもあった。「やっぱり、もう一度みんなと本気でサッカーしたかったな」。大森は部員ブログでインカレ前にこうつづっている。苦しい状況でプレーする仲間たちの姿に励まされながらも、もう共にピッチに立つことのできない自分。それでもみんなで日本一を取るために、チームを支え、闘い抜いた。

 


インカレはスタッフとしてベンチ入り。ア女ベンチには、大森の12番のユニフォームが飾られた

 「4年間、ア女でしかなかった」と、大森は大学生活を振り返る。練習だけではなく、授業を一緒に受けるのもア女のメンバーとだった。仲間思いの同期と、これまでで一番濃い時間を過ごしてきた。1対1で話す機会をたくさんの人とつくるようにしていたという大森。周りの人に支えられ、自分自身も支えてきた。ア女での4年間で気づいたのは、自らの「たくさんの人と関わりたい」という思い。人とのつながりを大切にしながら、大森は新たなステージでもきっと輝いていくだろう。

(記事 渡辺詩乃、写真 前田篤宏、大幡拓登)