燃える闘魂ことアントニオ猪木氏(享年79)の敵役だった悪役レスラーが北海道芦別市で市議をしている。若松市政(わかまついちまさ)さん(82)。昨春の統一地方選で6期目の当選を果たし、現在市議21年目。「政治とカネ」問題に揺れる永田町とは一転…

 燃える闘魂ことアントニオ猪木氏(享年79)の敵役だった悪役レスラーが北海道芦別市で市議をしている。若松市政(わかまついちまさ)さん(82)。昨春の統一地方選で6期目の当選を果たし、現在市議21年目。「政治とカネ」問題に揺れる永田町とは一転、人口1万人ちょっとの雪深い北海道の山間地で「税金の使い方」を考える日々を過ごす。

 若松さんのリングネームは「将軍KYワカマツ」。1980年代、新日本プロレス(新日)で「マシン軍団」と呼ばれた覆面レスラーたちを率いた。

 猪木氏に対し「お前を倒すのに3分もいらねえ。5分で十分だ」と言い放った“迷言”。巨人アンドレ・ザ・ジャイアント氏(故人)とタッグを組み猪木氏と初対戦した86年5月1日の両国国技館での死闘――。若松さんは猪木氏の強烈な光に照らされてリングで輝いた。

 猪木氏との初対戦は流血マッチになった。「延髄斬りを食らった瞬間、意識が飛んだよ。首の後ろを鍛えるのは難しいんだ」と懐かしむ若松さん。猪木氏に憧れて北海道の産炭地から上京し、レスラーとして夢をかなえた瞬間だった。猪木氏の葬儀にも参列。「猪木と同じことができる人物はいない。格闘家としても。国会議員としても」と、宿敵の功績をたたえる。

 そんな若松さんが99年、芦別市議になったのは、「税金の使い方がおかしいと思ったから」だという。リゾート開発の失敗で巨額の借金を抱えたふるさとを憂えての挑戦だった。

 「議員同士が仲良しこよしじゃダメなんだ」と、政党には属せずに活動する。税金の使い方をめぐって住民監査請求を起こしたり、住民訴訟に訴えたり。「闘う市議」として議場でも輝く。昨年、市議活動20年を節目に市政振興に寄与したとして市功労者の表彰を受けた。

 若松さんは国内最高齢の現役レスラーでもある。

 いまも全国に出向き、リングに立つ。市内である毎週金曜夜の市民向けトレーニングの講師役を20年以上務め、市民と交流しながら自らの肉体も鍛えている。

 「猪木の前に猪木なし。猪木の後に猪木なし。そして、猪木がいなかったら、いまのおれもいなかった」と、思い出を語る若松さん。今月、除排雪の予算編成をする臨時市議会にリングに上がるかのような鋭い視線で臨んだ。

 「議場で死ぬか。リングで死ぬか。おれはやれるだけやってやる」。新日のジャージーを身にまとう若松さんは、いまも熱い思いを胸に市議とレスラーの「二刀流」に闘魂を燃やす。(佐々木洋輔)