J1昇格を目指すファジアーノ岡山の長澤徹監督「謙虚さ」 J2ファジアーノ岡山の長澤徹監督は、その信条を明らかにしている。ありふれたフレーズかもしれない。しかし、それをとことん実践している点で、特筆に値するだろう。「クオリティは大事だが、…



J1昇格を目指すファジアーノ岡山の長澤徹監督

「謙虚さ」

 J2ファジアーノ岡山の長澤徹監督は、その信条を明らかにしている。ありふれたフレーズかもしれない。しかし、それをとことん実践している点で、特筆に値するだろう。

「クオリティは大事だが、それ云々よりも、緊張感を持って戦えるか。天狗になったら、すぐ足元をすくわれる。ボールを奪われたときの一歩が早く出るか、そういうところ。例えば今日(の長崎戦)はシュートをポストに当てた後、その選手がすぐにプレスバックで帰っていた。(失敗はあっても)選手のいいところは評価すべき」

 そう語る長澤監督は就任3年目。謙虚そのもののチームをこしらえた。決しておごらない、戦い抜ける集団だ。

 第26節終了時点で8位。昇格プレーオフ圏内の6位とは勝ち点で並ぶ。岡山は同県史上初となるJ1昇格の夢を果たせるのか?

「このスタジアムはやりにくい」

 J2第25節、岡山のシティライトスタジアムに乗り込んできたV・ファーレン長崎の高木琢也監督は0-2で敗れた後、悔しさを滲ませて語っている。

 この日のシティライトスタジアムは座席がエンジで埋まって、抜群の一体感を作り出していた。声援は熱いのだが、偏執的ではない。刮目(かつもく)すべきは単に騒いでいるわけではない点だろう。プレーを注視している人が多く、ハンドやオフサイドの判定に対してのリアクションが渦となって起こる。

 アウェーチームにとって、これはやりにくい。

 岡山という町全体に、「昇格」という気運が高まっているのもあるだろう。それがアウェーチームには物言わぬ圧迫感となる。昨シーズン、岡山は史上最高の6位で昇格プレーオフに進出。プレーオフ決勝にも進んでおり、”あと一歩”を体験したことが後ろ盾になっている。

 もっとも、岡山は戦力的に突出しているわけではない。J1で実績のある選手は赤嶺真吾だけ。J2でも中位程度が妥当の戦力と言えるだろう。アンドレ・バイア(湘南ベルマーレ)、イバ(横浜FC)、ウェリントン(アビスパ福岡)、シモビッチ(名古屋グランパス)のような、有力な外国人もいない。

 そして昨シーズンから多くの主力が移籍、もしくは退団している。GK中林洋次、CB岩政大樹、MF矢島慎也、FW押谷祐樹ら、中核選手がことごとく去っていった。これだけのチーム改編は、昇格を狙うどころか、降格の危険と隣り合わせだったと言えるだろう。

 事実、序盤戦は勝ち点を稼げず、大いに苦しんでいる。

「最初は選手が代わって、やりくりに苦しみましたね。序盤戦は勝ち点を取りこぼさざるを得なかったです」

 長澤監督は胸中を語るが、苦境の中で成長も促した。

「苦しい試合で、塚川(孝輝)のような若い選手が力をつけてきてくれた。そこはとても大きい。一歩間違えたら、どうなってもおかしくないのがJ2なので……。岡山の選手は、とにかく足を動かせるか(が重要)。走り切るっていうところをやり抜くことで、スーパーなプレーが生まれることもある。長崎戦も、体格のいいFWファンマのようなストライカーに対し、まずは正しいポジションをとってコンタクトにいけるか」

 岡山の選手たちは肉体的に劣勢になりながら、巨漢スペイン人FWファンマとのロングボールの競り合いで負けていない。勝てないまでも食い下がった。9分の先制点はまさにその戦略が駆動したものだ。塚川がどうにか競り勝つと、それを受けた豊川雄太がマーカーを置き去りにするドリブルで持ち上がり、右足ミドルを左隅に流し込んだ。

 長崎戦の岡山は開始から15分間、ラインを高めに設定してリスクを負い、攻撃にパワーを投じている。機先を制するというのか。立ち上がりに相手を叩いてリードし、ペースをつかんだ。試合巧者になりつつある証左だろう。

 しかし、楽な戦いはない。

第26節の京都戦(結果は1-1)ではエースの赤嶺が負傷し、全治6~8週間と診断された。赤嶺は得点だけでなく、プレスの起点となり、ポストワークで攻撃の流れを生み出していた。精神的な支えでもあっただけに、やりくりは厳しくなった。クラブは後半戦に向け、アルゼンチン人FWニコラス・オルシーニと契約。態勢を強化していたが、戦力としては未知数だ。

 いずれにせよ、総力戦になるのは間違いない。センターバックは左利きの喜山康平が定着し、左翼を安定させた。攻撃のキーマンは、リオ世代の豊川だろうか。身体的躍動感のある選手で、パワー&スピードで相手を凌駕できる。トレーニングと試合で鍛えられ、J2では飛び抜けた力を示しつつある。また、石毛秀樹のようにJ2の中でセンスだけは傑出する新鋭が化けるか――。

 長澤監督は、目の前の勝負に徹している。

「自分たちはペダルを漕ぎ続けるしかない」

 謙虚たれ、をモットーとする指揮官らしいメッセージである。