ブンデスリーガ開幕まであと1週間あまりというのに、ドルトムントは視界不良のままだ。 昨季のドルトムントはリーグ戦こそ3位に終わったものの、ドイツ杯では決勝でフランクフルトを下し優勝。それなりの結果を残したシーズンとなったが、そのドイツ…

 ブンデスリーガ開幕まであと1週間あまりというのに、ドルトムントは視界不良のままだ。

 昨季のドルトムントはリーグ戦こそ3位に終わったものの、ドイツ杯では決勝でフランクフルトを下し優勝。それなりの結果を残したシーズンとなったが、そのドイツ杯決勝直後にトーマス・トゥヘル監督をクビにした。ヨアヒム・ヴァツケCEOが直々に公式ウェブサイトで釈明コメントを発表せざるを得ないほどの異例の人事だったが、トゥヘルがチーム内部でよほど不評を買っていたのだろうと推測された。 



ドルトムントの今季開幕イベントでファンの声援に応える香川真司

 後任のピーター・ボス新体制でスタートした今季だが、ここまでのトレーニングマッチは7戦して3勝1分3敗という成績に終わっている。まずチームが始動してすぐに行なった4部のロートヴァイスエッセンとの試合に2-3で敗れたものの、アジアツアーでは浦和レッズとAC ミラン(イタリア)に連勝。ところがドイツに戻って2部のボーフムと引き分けると、キャンプ地でベルガモ(イタリア)とエスパニョール(スペイン)に連敗している。

 先週末には今季初の公式戦、リーグ優勝チームとカップ戦優勝チームが戦うスーパーカップが行なわれ、PK戦の末にバイエルンに敗れている。ちなみにそのバイエルンもプレシーズンは絶不調で、現地では「問題あるチーム同士の対決」などと揶揄されていた。

 そしてスーパーカップ翌日に行なわれた3部エアフルトとの練習試合には5-2で勝利したものの、これは若手中心メンバーで戦ったもので、評価の難しいところだ。

 戦力を見てみると、現状ではさほど大きな補強も放出もない。ただ、守備面での脆さを課題にしているのだろう。ディフェンシブな選手の顔ぶれは変わりつつある。まずPSGからフランスU-18代表のCBダン=アクセル・ザガドゥを、さらにボルシアMGからMFマフムド・ダフード、レバークーゼンからトルコ代表DFエメル・トプラクを獲得している。一方、ともに最終ラインと守備的MFの複数ポジションをこなしていたマティアス・ギンターはボルシアMG、スヴェン・ベンダーはレバークーゼンに移籍した。

スーパーカップのバイエルン戦では先発のチャンスを得たダフードとザガドゥだが、ダフードは前半だけでセバスティアン・ローデに交代。ザガドゥも77分にフェリックス・パスラックと交代しており、未だテストの域を出ていない。

 攻撃陣に目を向けると、毎年夏になると移籍の噂が出るオーバメヤンに、現状では動きはない。昨季の得点王の去就次第でドルトムントは最大の得点源を失うことになるだけに、動きがないこと自体が朗報だろう。

 最近ではバルセロナがウスマン・デンベレの獲得を狙っているという噂も出ている。デンベレやクリスチャン・プリシッチを含め、スピードのある前線の若手はサッカー選手として急成長中であり、いつビッグクラブに引き抜かれてもおかしくはない。

 そしてそれ以外の中心選手はというと、負傷者の多さが目につく。ドイツ杯決勝でまた前十字靭帯断裂の大ケガを負ったマルコ・ロイスは、リーグ戦の前半戦は不在を覚悟しなくてはならないだろう。昨季のリーグ最終節にケガをしたユリアン・ヴァイグル、そして日本代表のシリア戦で右肩を脱臼した香川真司は、まだ一度もベンチに入っていない。

 香川に関しては、8月末にW杯予選も控えており、復帰具合が気になるところではあるが、現状を見る限りまだ時間はかかりそうだ。ボス新監督は、監督就任時のインタビューでわざわざ名前を出すなど、香川の起用に希望を持たせたが、今のところはまだ土俵にも上がっていない。

 以上を整理すると、あくまで現時点では昨季とほとんどメンバーは変わらず、ただケガで出遅れている選手が多いということになる。安定しているといえば聞こえはいいが、パフォーマンスのマンネリ化が危惧され、選手層の薄さも解決できていない。

 ボスは昨季、オランダのアヤックスを率い、ヨーロッパリーグではドルトムントの宿敵であるシャルケを倒している。決勝ではマンチェスター・ユナイテッドに敗れたものの、躍動するサッカーは一躍注目を集めた。昨季のアヤックスは平均年齢が22歳を切る若いチームで、豊富な運動量と統率の取れた守備を売りにしていた。かつてのドルトムントのようだ、と言ってもいいだろう。

 そのボスを引き抜いたドルトムントだが、これだけ練習試合を重ねても新監督のサッカーの形は見えてこない。キャリアもプライドも高くなった現在のドルトムントの選手たちに対しては、昨季のアヤックスのようにはいかず苦戦中なのかもしれない。選手たちからも、これといったボス評は聞こえてこない。このあたりは内外から不満が噴出したトゥヘル時代の二の舞になることを恐れている可能性もある。

 今週末にはドイツ杯1回戦、そして来週末にはブンデスリーガが開幕する。どのようにシーズンを戦うのか、こんなにも方向性が見えないドルトムントは珍しい。