高校野球の強豪・帝京(東京)で約50年間監督を務め、同高を3度の甲子園優勝に導いた前田三夫さん(74)が、群馬県高崎市のホテルで講演した。日本少年野球連盟群馬県支部主催で4日にあり、県内の高校野球の指導者ら約200人が聴き入った。 前田さ…

 高校野球の強豪・帝京(東京)で約50年間監督を務め、同高を3度の甲子園優勝に導いた前田三夫さん(74)が、群馬県高崎市のホテルで講演した。日本少年野球連盟群馬県支部主催で4日にあり、県内の高校野球の指導者ら約200人が聴き入った。

 前田さんは千葉県袖ケ浦市出身で、高校時代は木更津中央(現・木更津総合)で三塁手として活躍した。帝京大を卒業した1972年に同高監督に就任。春夏通算26回甲子園に出場し、松本剛(日本ハム)や中村晃(ソフトバンク)ら多数のプロ野球選手を育てた。

 速球派投手の育成や、振りまけない体作りに定評がある前田さん。しかし、講演では、技術だけでなく、「心」を大切に指導してきたことを具体的なエピソードを交えて明かした。

 ある日、グラウンドに出ると、選手たちが木製バットでスパイクの泥を落としたり、チャンバラをしたりして遊んでいた。バットを作った人の苦労も考えられないようでは、野球もうまくならないと思った。

 選手たちを東京都新宿区のバット工房に連れて行った。そこには、1本の木を丁寧に削り、少しずつバットの形に整えていく職人の姿があった。「1本のバットを作るのがどれだけ大変か分かったか!」。職人を食い入るように見ていた選手たちはボールやバットを大切にするようになった。結果も後からついてきた。

 前田さんは講演で、指導者に大切なのは「負けに向き合う心」と説いた。「どうすれば勝てますか」と聞かれることばかりだが、そのたびに「負けることだよ」と答えているという。

 また、試合に負けた日の自身の行いについても振り返った。帰宅前、近くの川や公園に必ず立ち寄った。「なんで負けたのか」「どんな練習が必要か」。1人で歩きながら試合を振り返り、敗因を分析した。すぐに忘れたいほど悔しい負けも多かったが、「負けた試合にこそ選手が伸びるヒントがある」。負けからの再出発を繰り返し、負けないチームになっていった。

 前田さんは、「負けを選手のせいにしたり、忘れたりするようではダメ。チャンスだととらえて頑張ってほしい」と指導者たちにエールを送った。(吉村駿)