「人生の夏休み」を終え、パワフルになってコートに戻ってきた。バスケットボール女子日本代表の馬瓜エブリン(28)だ。 2021年の東京オリンピック(五輪)で銀メダルを獲得したメンバーの一人。トヨタ自動車で22年までプレーした後、「人生の夏休…

 「人生の夏休み」を終え、パワフルになってコートに戻ってきた。バスケットボール女子日本代表の馬瓜エブリン(28)だ。

 2021年の東京オリンピック(五輪)で銀メダルを獲得したメンバーの一人。トヨタ自動車で22年までプレーした後、「人生の夏休み」と宣言して、競技から約1年離れていた。

 競争が続いた日々から心身を解放し、バスケット以外の仕事に挑戦した。テレビなどの様々なメディアに出た。立ち上げた会社で、コーチと子どもたちをつなぎ合わせるサービスも始めた。

 今まで男子だけが加入していた「日本バスケットボール選手会」に、女子Wリーグの選手たちが加入できるよう、道を整えた。昨年末、自身は同会の副会長に就任した。プロの男子と実業団の女子。環境の違いに難しさを感じながらも、「みんなに納得して入ってもらえるようにしたい」と試行錯誤を続ける。

 幅広く活動してきたが、実は「夏休み」に入ってから3カ月ほどでバスケットがやりたくなったという。

 男子の試合の解説でコートに降りた時には、思わず泣きそうになった。「それだけバスケがやりたかったんだなと改めて感じられてよかった」と振り返る。

 男子の試合を観戦したり、女子のリーグや代表の試合を客観的に見たりすることで、「自分がここにいたら」とイメージを膨らませた。様々な人との出会いが世界を広げ、心に余裕が持てるようになったという。

 充電期間をへて、昨年6月に競技に復帰。デンソーに加入し、昨年末にあった皇后杯全日本選手権で、チームの初優勝に貢献した。

 1年のブランクを埋めることにもっと苦労するのではないか。当初はそう考えていたというが、杞憂(きゆう)だった。リーグでの活躍が認められ、パリ五輪の世界最終予選に向けた代表候補に選出された。伸びやかなプレーでチームを引っ張っている。

 最終予選の初戦、スペイン戦ではチーム最多タイの20得点。世界ランキングで格上の相手を倒す原動力になった。試合後は「語彙(ごい)力がなくなるくらい、うれしい。スペインはずっと勝ちたくて仕方がない相手だった」と笑顔がはじけた。

 「走り勝つシューター軍団」というコンセプトの下、体格が小さくても、素早く動けるガードを手厚く配置した今回の代表。大型化ではなく、機動力と運動量を武器に世界の強豪と戦う道を選んだチームにとって、速さと強さを兼ね備える身長180センチのエブリンに課せられた役割は大きい。

 182センチの妹ステファニーとともに、190センチ台の大型選手をマークしなければならない時間も増えた。それでも「当たり負けしたくない」と話していた通り、積極的な守りでもチームに貢献している。

 東京五輪の時はギリギリでメンバーに入った。何としても代表に残りたいと必死だった。でも今は、当時と違って自然体だ。「自分の中ではステファニーと一緒に(パリ五輪に)出られたら、すごくいいなと思っています」。3年前は3人制の代表だった妹と同じコートで戦う姿を思い描く。

 1勝1敗で挑む最終予選最後の相手は、またもランキング上位のカナダ。勝てば、すでに切符をつかんでいる男子とそろってのパリ五輪出場が決まる。

 女子バスケット選手の新たなロールモデルは、しびれる舞台でこそ力を発揮するはずだ。(野村周平)