野球をする子どもたちが減っている状況に歯止めをかけようと、プロとアマチュアが手を取り合った普及活動の輪が各地で広がりつつある。新型コロナウイルスの影響で一時は停滞したが、再び動き出した。 「打ったら、あっちに走るんだよ」。昨年11月下旬、…

 野球をする子どもたちが減っている状況に歯止めをかけようと、プロとアマチュアが手を取り合った普及活動の輪が各地で広がりつつある。新型コロナウイルスの影響で一時は停滞したが、再び動き出した。

 「打ったら、あっちに走るんだよ」。昨年11月下旬、岩手県宮古市の体育館は活気づいた。佐藤愛衣斗さん(5)は、ティーに置かれた軟らかいボールをプラスチック製のバットでかっ飛ばした。ダイヤモンドを一周し「ホームランが打てた」と照れ笑いした。

 岩手県高校野球連盟が主催したボール遊びのイベントの一幕だ。未就学児から小学2年生までの計75人が参加。狙った的にボールを投げるストラックアウトや、野球のルールを簡単にした「BTボール」を楽しんだ。

 県高野連は今回、初めて取り組んだことがある。日本野球機構(NPB)の協力を得たのだ。プロ関係者が学生に野球の指導をするには「学生野球資格」が必要だが、日本学生野球協会が認めれば可能になる。

 普及イベントで指導役を務めたのは、地元高校の野球部員約25人と、楽天イーグルスアカデミーのコーチだ。宮古高校2年の上木伯さんは「子どもに教えながら、改めて野球の楽しさを感じた」と話した。

 連携には、双方にメリットがある。県高野連の柳谷和人副理事長は「楽天のユニホームを着たコーチと一緒に遊ぶのは、子どもにも高校生にも良い経験になる」。NPB野球振興室の今関勝主任は「小さい子どもにとっては地元の高校生こそが身近な憧れでしょう。NPBの球団は12チームだが、47都道府県にいる高校生の力を借りたい」。

 こうしたプロとアマチュアが連携した普及活動は、今後活性化する見込みだ。背景には、野球離れへの危機感がある。

 日本高野連によると、2023年度の硬式野球部員数は12万8357人。少子化の影響があるものの、9年連続で減少している。

 夏の全国高校野球選手権大会は18年に第100回大会を迎えた。同年、春夏の甲子園大会を主催する日本高野連と朝日新聞社、毎日新聞社の3者は「高校野球200年構想」を発表した。「普及」「振興」「けが予防」「育成」「基盤作り」の五つを目標に事業を展開している。

 宮古市でのイベントも「200年構想」の一環だ。コロナ禍で自粛した20年度をのぞき、22年度までの4年間で36県の高野連が計678回の普及イベントを開催。計3万人以上の子どもが参加した。日本高野連の担当者は「普及に向けて、野球界が一つになろうという流れができている」。

 今月には、楽天モバイルパーク宮城(仙台市)の室内練習場で宮城県高野連などが「プロアマ共催野球教室」を開催予定。全国各地でも、小中学生や未就学児らを対象としたイベントが予定されている。

 高野連とNPBだけではない。スポーツメーカーのミズノやアシックスなど約20社が協力し17年に、一般社団法人「野球・ソフトボール活性化委員会(球活)」が発足。用具を貸し出し、NPBや日本高野連とともにボール遊びのイベントを開いている。全国の都道府県の高野連では小、中学生といった別のカテゴリーが連係する協議会を設立する動きも進みつつある。

 野球を次世代につなぐ――。思いは一つだ。(大宮慎次朗)