「(最終日はスタート前の)ウォーミングアップが最悪だったので、こんなに素晴らしいプレーができるなんて、最後まで信じられなかった。スタート前はパープレーでいければいいかと思っていましたが、1番を(パーで)しのいで、2番でイーグルがとれて波…

「(最終日はスタート前の)ウォーミングアップが最悪だったので、こんなに素晴らしいプレーができるなんて、最後まで信じられなかった。スタート前はパープレーでいければいいかと思っていましたが、1番を(パーで)しのいで、2番でイーグルがとれて波に乗っていけた。

 いつミスが出るか不安で仕方がなかったんですが、結局(最後まで)大きなミスもなくてよかった。これだけたくさんのギャラリーが詰めかけてくれてとても力になりましたし、また多くの日本人ファンから応援してもらって本当にうれしかった」

 オハイオ州ファイヤーストーンCC(パー70)で開催された世界選手権シリーズ(WGC)のブリヂストン招待(8月3日~6日)で、日本期待の松山英樹(25歳)が最終日に圧巻のプレーを見せて優勝。今季3勝目、米ツアー通算5勝目を飾った。



WGCブリヂストン招待で今季3勝目を挙げた松山英樹

 最終日、首位と2打差の4位でスタートした松山は、2番(パー5)でチップインイーグル。早々に首位に並ぶと、続く3番もバーディーを決めて、その後も6番、9番とバーディーを奪取した。上位陣がなかなかスコアを伸ばせない中、松山ひとりが別次元のゴルフを披露。前半だけで5つスコアを伸ばして、首位を快走した。

 後半に入っても、松山の勢いは止まらなかった。13番でピン奥からバーディーパットを沈めると、最後は16番から18番まで完ぺきなショットを見せて、立て続けにバーディーチャンスを生み出した。

 そして、そのチャンスをすべて決めて3連続バーディー。最終的には2013年にタイガー・ウッズが記録したコースレコードに並ぶ「61」をマークし、通算16アンダーでフィニッシュした。2位に5打差という大差をつけての勝利。その松山の強さには、他の選手も脱帽するしかなかった。

「松山はいったい火がつくと、その勢いが止まらない。それが非常に印象的で、これまでもそうしたプレーで数々の優勝と上位フィニッシュを決めてきた」(ロリー・マキロイ)

 今回の松山の優勝について、ゴルフジャーナリストの三田村昌鳳氏はこう語る。

「まずは、精神的な充実度というのが大きい。今回の松山は、終始おだやかにプレーしていた。自分の目指すゴルフというものを淡々とこなしていた。それが、結果につながったと思う。ただ、ここまで来るのに、やはり半年くらいかかったんだな、とも思った。

 そもそも松山が世界ランキングの上位に名を連ねてから、もし今季、メジャーを勝つとすれば、全米プロ選手権あたりではないかと思っていた。というのも、世界ランキングのトップ3、トップ5以内に入ると、そこには”ウイナーの気圧”と言えばいいのかな、普通とは違うゾーンというか、環境がある。当然そこでは、試合で結果を出すこととか、勝たなければいけないとか、そういう気持ちやプレッシャーがそれまでよりも増幅する。

 松山は当初、そういう中での居心地が悪かったのだろう。なかなか馴染めないでいた。例えば、今春のマスターズの頃が顕著だったが、世界ランキング5位以内に入って周囲からの注目度も増して、どこかピリピリしていた。変に自分が変わってしまうというか、自分が自分でなくなっていた。マスコミ対応をはじめ、自分の動き方、トーナメントへの入り方など、いろいろなものがギクシャクしていた。

 それがおよそ半年経って、ようやく世界トップの”気圧”、つまり自らの置かれた位置に馴染んできたなと、今回の松山を見て思った。例えるなら、標高3000m、4000mといった気圧の状態の中でも、普通でいられるようになった。普通の選手なら、そんな気圧の中では戦えないんだけど、松山はそこでも普段どおりに生活して、自分のゴルフができるようになった。

 そうして、また別の領域に入っていった。その領域にいるのは、ジョーダン・スピースやダスティン・ジョンソン、ロリー・マキロイなんかで、技術も、肉体も、メンタル的な部分も、彼らと同じレベルに達したかな、という印象。いい表現が見つからないけど、単純に言えば”太い”。これまでとはぜんぜん違う”太さ”を、松山から感じることができた」

 まさに、世界の最上段のステージに上がった松山。だとすれば、期待がますます膨らむのは、メジャー制覇である。すぐさま、今季メジャー最終戦となる全米プロ選手権(8月10日~13日/ノースカロライナ州)が開催されるが、そこでチャンスは巡ってくるのだろうか。三田村氏はこう分析する。

「松山にとって、これからのテーマになるのが、1勝したあと、同じ”体温”を次の試合でもキープできるかどうか。普通の選手はどうしても一喜一憂して、勝ったあとの試合は小休止するような結果に終わることが多いけれども、そうはならずに、勝ったときと同じ状態、気持ち、充実感などを保てるかどうか。今度、松山が問われるのはそこ。

 つまり、今度の全米プロでも優勝争いとか、優勝争いに加わったうえで5位以内に入ってくることできれば、またステップアップすることになる。無論、メジャーに勝つ要素というのも増していく。それが今回なのか? チャンスはゼロではないと思う」

 ブリヂストン招待を勝ったあと、松山は全米プロに向けてこう語った。

「この素晴らしいコースで、これだけのプレーができたことは、来週(全米プロ)にもつながると思う。来週のメジャーでも勝てるようにがんばります。僕はまだメジャー大会で1勝もしていない。そのためには、やるべきことがたくさんあるけど、決して(勝つ)自信がないわけではない」

 はたして、松山の2週連続優勝はなるのか。そして、日本人初のメジャー制覇はなるのか。注目の大一番から目が離せない。